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だから私はそんな翔ちゃんのせいにして生チョコをひとつ指でつまみ上げる。
やたら長く続く息で「あー」と口を開けていた翔ちゃんがニヤリとまた口角を上げて一度口が閉じる。
それからまた開けられたその口のそばに、私は生チョコを運んでいった。
「…ん」
ぱくりと、翔ちゃんは私の指ごと生チョコにかみついた。
生き物みたいな舌がぬるりと私の指に触れる。
ぞわっと背筋に震えが走って、私はそのまま固まった。
翔ちゃんは楽しそうに口角を上げる。
「なに、感じた？」
「な、な、……」
「それとも噛む方がいいか？」
「ひゃっ」
指に優しく歯が当たって耐えきれずに引き抜けばまた翔ちゃんが笑う。
私の指を口に含んだまましゃべるなんて、卑怯だと思う。
翔ちゃんの舌の上に置き去りになった生チョコはどうなっただろうか。
かみ砕かれてあの生き物みたいなものの温度で溶けてどろりとした液体になって喉の奥へと落ちて行ったんだろうか。
「……うん、今年も美味い」
「それは…よかった……です」
呼吸を整えながら言う私に「なんで敬語」と翔ちゃんはまた笑う。
だから私も、笑ってしまった。
好きな人の笑顔は何よりものご褒美になる。
背筋を走り抜けた甘い何かも指にまだ絡みついている気がする翔ちゃんの温度も、私だけがもらえる特別なもの。
私が翔ちゃんのために生チョコを作るのと同じように、翔ちゃんは私のチョコを食べるためにほかのチョコを一切開けずにいてくれる。
ほかの人にも渡すしもらうのは互いの了解の上だ。
翔ちゃんが女の子からもらうチョコをむげに断れないことも知っているし。
私が友達にはチョコを渡したいことも翔ちゃんは分かっている。
つまり私たちは、互いのバレンタインを邪魔することなんてありえないのだ。
「ありがと、A」
「どういたしまして翔ちゃん」
今年もまた本命チョコを送った思い出が積み重なる。
ひとつひとつ、翔ちゃんの笑顔と優しい声と一緒に。
どうしようもなく、翔ちゃんが好きだ。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年2月14日 18時
