chocolateのゆくえ《ars》 (ページ12)

今日:1 hit、昨日:3 hit、合計:64,661 hit

-12- ページ12

.

私もたまぁに思ったりする。

翔ちゃんがうちに忘れて行った部屋着の上着に顔をうずめて眠りたいな、とか。

好きな人の香りが好きなのは生物学上仕方がない。

そう思うことにして、私はたまに翔ちゃんの上着を抱きしめる。

恋心なんて、そんなどうしようもないものだ。

「ううん、いいの。私もゴメンね、あんなに怒って。嫌なことが合って八つ当たりしただけなの」

そんな欲の色をした気持ちはかくしてかわいい女の子のふりをして笑う。

「ありがと翔ちゃん、探してくれて」

「……当然だろ、お前からもらったものなんだから」

「…うん」

翔ちゃんは恥ずかしがり屋な割にこういうことを恥ずかしがらずに言ってしまう。

人前で手を繋ぐのは嫌がるくせに、どういう基準なんだろうか。

聞きたいような気も、聞きたくないような気もする。

「ところでA、今日の夕飯は？」

「まだ考えてない、いまやっとバレンタインが終わったとこだし」

「じゃあ食いに出よう。夕飯デート」

「それデートって言うの？」

「言わなくてもいいけどお前と一緒がいいの。行こう」

「もう」

翔ちゃんは照れ屋さんだからこういうときに私の手を引いてくれたりはしない。

だけどただ可愛い女の子なわけじゃない私と私以外の女の子に冷たくできない翔ちゃんの距離感はたぶんこのくらいでちょうどいい。

女の子にはみんなに優しい翔ちゃんが私は嫌いではないからだ。

そんな翔ちゃんが私には意地悪に笑うのは、私が恋人である特権だと思うから。

.