22話 ページ22
__呪術高等専門学校3年生、9月の出来事だった。夏も終わりに差し掛かっているというのに、じっとりと肌に張り付くように暑い。
私と傑は、過疎しきった村に来ていた。神隠しやらそれに伴った色々とした事件があって、原因である呪霊を祓う為に。呪霊を祓って村に戻れば、2人の男女に古ぼけた小屋に連れて行かれた。
「……これは」
ひくり、と自分の唇が引きつるのを感じた。……痣だらけの幼い少女2人が檻に閉じ込められている。そのおよそ人の所業とは思えない悲惨な状況を、私はただ見ていた。
私が呆然とそれを見つめている間に、傑は私達を連れて来た人と言葉を交わす。どんどん顔を険しくする傑に、ざわざわと体の芯が波打つ。よくない予感がする、と頭が激しく警鐘を鳴らした。
「皆さん、一旦外に出ましょうか」
やけに落ち着いたその声が聞こえて、……あ、それは、まずい。
待って、と引き止める間もなく、彼らは外に出たから。私は、その背を見るしかなかった。そうしていると、不意に視線を感じて、見ればあの少女2人だった。
どちらもひどく不安そうな顔をしている。一歩近付くと、大げさなまでに肩を震わせた。私は足を止めて考えた後、その場にしゃがんで目線を合わせる。
「君達は大丈夫だよ。あの男の人がきっと何とかしてくれるから。……ああでも、目を閉じて、耳を塞いでいた方がいいかな」
「……ど、どう、して……?」
「今は秘密。後でちゃんと教えてあげる。さあ、ほら、早く」
有無を言わさぬ調子で急かすと、不思議そうにしながらも2人は目を閉じ、耳を塞いだ。それと同時に、何かを潰すような音と汚いうめき声。ギリギリセーフ、と若干安心する。
傑が、非術師を虐殺している。
そう察するのは簡単で、でも、その行為はあまりに傑に似合わないから、上手く呑み込めない。だって彼は、「呪術は非術師を守るためにある」と言い切ったじゃないか。弱きを助け、強きを挫くために、と。
「……どこからズレてたの、君」
呟いても、返事はない。返り血に濡れているだろう傑の帰りを待ちながら、私は過去を振り返ることにした。ただただ傑の歪みの根源を知りたかった。
違和感はずっと前から感じていた。何かがおかしい、と思い始めたのは1年くらい前。ただ、より強くそれを感じたのは、特級術師の由基さんに会った時。
そこからだったのだろうか、と外の声を聞きながら、ぼんやり思った。
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作者名:べにしょうが | 作成日時:2022年5月7日 19時