21話 ページ21
傑の部屋を訪ねた日から、どことなく彼に対して違和感を感じ始めるようになった。おかしな素振りをしていた訳でもないし、任務先で怪我が増えた訳でもない。けれど、何となく、嫌な感じがするのだ。
でも多分、ただの気のせい。私はそう思い直し、律儀に教室の椅子に座る傑に話しかけた。
「特級昇進おめでとう、傑」
「……ああ、ありがとう。Aも、1級おめでとう」
確証もない違和感よりも、今は
心からの称賛を向けたというのに、傑は浮かない顔だ。また、胸の奥がチリつくような違和感。それを振り切るように、わざとらしく声を大きくして言った。
「……はあ、やっと私も1級に上がったと思ったのに、君は特級になっちゃって。いつになったら一緒の等級になれるんだろうね」
「特級に上がればいいじゃないか」
芝居がかった調子で肩を落とすと、傑は事もなげに言い放った。ひくついた口角を見て、彼なりの冗談だと分かる。なら、それにノらない手はない。
「特級は言うことが違うね」
「褒めても何も出ないよ」
「褒めてないよ」
くすくす、とどちらともなく笑い始める。小さな笑いは段々と大きくなって、いつしか2人ともお腹を抱えてしまっていた。涙が出る程の笑いは、ドン引いた顔の硝子が教室に入ってくるまで続いた。
「……あー、笑ったね。こんなに長く笑いを共有できるなんて、実は運命なんじゃない?君」
「冗談でもやめてくれ」
本気で嫌そうな表情を作ったから、少しイラついたのは確かだ。
私、君が耳真っ赤にした時のことまだ忘れてないよ。
そう呟いてみれば、傑は椅子から崩れ落ちた。同時に、無言でガラケーを起動して、カメラを向ける硝子。写真……いや動画か。私が言ったこととはいえ、流石に同情する。
「……ごめん、まさかそんな反応するとは」
流石に罪悪感があって謝った。首筋まで赤くする傑。顔だけは通常通りなのが面白い。
「君が好きだよ」
「……、そうか」
素直にならない傑の手を取る。傑は諦めたように私の手を握った。それが答えだった。幸せだと思った。この幸せが永遠に続けばいいと、続いてほしいと、心底願ったのだ。
こんな殺伐とした世界では、いずれ終わりが来ると知りながら。
けれど、この幸福の終わりがたった1年後だとは、これっぽっちも思っていなかったのだ。
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作者名:べにしょうが | 作成日時:2022年5月7日 19時