18話 ページ18
そこに答えがたどり着いて、私は慌てて起き上がった。したたかに打ち付けた腰が痛みを主張しているけれど、それに構う余裕なんかない。傑が、傑が！
「どこに行くつもりなんだい？」
「分かりませんか？傑のところですよ！」
いつもと変わらない態度で、ゆったりと尋ねる先輩に鬱屈とした感情があふれる。苛立ちを隠すことなく吐き捨てて、立ち上がって走り出そうとした。傑の身に何かあったら、私は。
「待つんだよ」
踵を返して、今にも地を蹴り出そうとした私の腕を先輩が掴む。待機を諭す先輩の声は硬く、ぴりぴりと圧が肌を刺した。振り向いて、吐き散らす。尖った声色で、先輩を睨みつけて。
「何かあったかもしれないのを、黙って待ってろって言うんですか」
「そういうことになるね」
私の激高を気にも留めず、目を閉じて彼女は肯定する。それに更に怒りが煽られる。ぎりぎりと歯ぎしりをすることで自制して、言葉の続きを待った。
「さっきの呪力は、ほぼ間違いなく五条君のものだろうね。高専の結界内であんな強大な呪力となると、恐らく何らかの異常事態が起きたんだろう」
「だから、私は……傑を、」
「だからこそだよ」
淡々と客観的な事実を述べる先輩と、噛みつく私。そんな私を咎めるように、先輩は若干声のボリュームを上げて、私の言葉を遮る。きゅっと唇を閉ざして、静かに子供みたいだと思った。傑と叫んで、他のものを振り払って、わがままな子供。
「……だからこそ、だよ。五条君が全力を賭して闘っている所に、行って何になる？呪術界で一番強いのは彼だろう？私が行っても、……誰が行っても、足手まといになるのさ」
「……っ」
「足手まといなら良いものかもしれないね。最悪、五条君の術式に巻き込まれて死ぬ。……こんな何の得にもならない場所、私は御免だ」
静かに、けれど確かに、正論に押し潰されていく。息が上手くできない。先輩の言うことはもっともだ。反論一つ見つからない。足元を見つめながら、頬の肉を噛んでやるせなさを追いやった。先輩の、指示に、従うべきだ。
「……すいません」
「いや、構わないよ」
鷹揚にからからと笑う先輩。私は何も答えられないまま、座り込んで膝を抱えた。
未だ爆発音が聞こえる中、傑の無事を願うことしかできない自分を、もう、ひどく、狂おしい程に嫌悪した。
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作者名：べにしょうが | 作成日時：2022年5月7日 19時
