17話 ページ17
「利益を完全に度外視した考え、私には全く理解できなくて面白いよ」
先輩はくつくつと喉の奥で笑いながら、そう落とすように呟いた。いつもの細い瞳を目一杯開いて、私を上から下まで見つめる。執拗なそれに一歩下がると、先輩は目を細めて視線を外す。
「不躾にすまないね。……さて、今日の夕方には帰ってくるんだろう?今日は任務もないし、それまで稽古をつけてあげよう」
「……あ、……はい。お願いします」
……どうやら、とうに私の好きな人はバレているらしい。隠しているつもりはなかったけど、面と向かって言われると気恥ずかしさが勝る。
先程までとは違う種類の……何となく生暖かい笑みを浮かべながら、先輩はいつもの斧を手に取った。本当の武器を使うことに驚く暇もないまま、鼻先ギリギリにそれを突きつけられる。反射的に顔を引いた。
「さ、……おいで」
「随分と熱烈なお誘いなようで……っ!」
妖艶に先輩は私を誘う。初手は譲ってくれるらしいと悟り、私は短剣を手に飛びかかった。……狙うは、首。
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……どれくらい、時間が経っただろうか。息も絶え絶えで汗もビシャビシャな私とは反対に、先輩は汗一つかかない。どこまでも余裕に、けれども隙は見せず、私を翻弄する。彼女が遊ぶように振るう斧を受け流すので精一杯だ。
「手加減、とか……っ、はぁ、あっても、いいんじゃないですか……!」
「ふふ、それじゃあ稽古にならないね」
必死に口を開いて恨み言を吐いても、先輩はそれを笑って流す。余裕そうな態度に怒りが湧いて、短剣を振りかぶったその時、轟音が聞こえた。と同時に、大きな呪力の気配。
「っ!?」
「……おや」
言葉では表せない音に固まる私と、目線だけ音が鳴った方向に向ける先輩。
焦って短剣を下ろした私を、先輩は斧の柄で思い切り小突いて倒す。背中から倒れて痛みに悶絶していると、切っ先が胸元に軽く触れた。
「どんな時でも、隙を見せてはいけないよ。Aは今、私に殺された」
「……そうですね」
返事をしながらも、私の意識はあの呪力に割かれていた。あんな大きな呪力を一気に放てるなんて、私が知ってるのは五条くらいだ。時間も時間だし、任務を終えて帰ってきたのだろう。
……どうして?
……高専の結界内で呪力を放つ必要があった?
思考が急激に回って、答えはそこに落ち着く。……つまり、それは、傑にも、何かあったのかもしれない。
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作者名:べにしょうが | 作成日時:2022年5月7日 19時