14話 ページ14
その日は、宴だった。
『命と引き換えに、相伝の子を守った英雄』として、付き人は称賛された。その時に初めて、この家の『守る』を理解したのだ。
「気持ち悪いとしか思えない」
いつの間に力が入っていたのか、短くなった煙草は歪にへしゃげていた。まるで私の家みたい、と心の中で嘲笑う。……ああ、でも、今は。私もその気持ち悪い人間達の枠に入っているのだ。
ずっと1人で喋ってしまった。硝子は、不快感をあらわにしていた。さっきまでのもどかしさからの苛つきとは違う、もっと純粋な嫌悪。反転術式で人を生かす彼女にとって、私の家の方針は理解できないのかもしれない。
「きっしょ」
「うん、私もそう思う。……思ってた、けど。ねえ君、やっぱり私も、あんな気持ち悪い家の人間なんだよ」
何一つ取り繕わない彼女の言葉に、私は肩をすくめて同意した。それから、私の気持ち悪い内面を明かす。この続きを、言ってしまっていいのだろうか。生かすことで人を守る彼女に、こんなことを。少しだけそんなふうに躊躇して、でも、ここで留めるのも苦しかった。
「＿＿私、傑の為なら死ねるんだ」
「…………はあ？」
傑の存在をこの世界に留めておけるなら、私は死ねる。傑の純粋な笑顔を、あの煌めきを、あの眩しい程に美しい性根を、守れるなら。あのぬるい体温、あの圧倒的な強さを、睫毛の一本を、一枚の爪を、彼の存在まるごとすべて。
「守りたいよ、硝子。私、あの人を守りたい。守って、それで、彼を看取りたいんだよ。私、傑の隣で傑を守り続けて、終わりを知りたい」
優しい、彼の心ごと。外傷だけじゃなくて、内面も守ってあげたい。彼は、呪術師として生きるには優しすぎるから。きっといつか、ぼろぼろに擦り切れて壊れてしまうから。そんな姿になった傑を、愛したいわけじゃない。
だから、守っていたい。その途中で、この鼓動を止めることになったとしても。むしろ、それは甘美な囁きだった。傑を守って死ねたなら、私は自分の生に誇りを持てる気がする。……本当、こういうところが、気持ち悪い。
「そうやって……そうやって、守って死ぬことに抵抗がなくなってしまったんだよ。あんなに、気持ち悪いって思ってたのに、……今も思うのに」
目の奥が熱くて、痛い。ぼろっと雫が頬を伝って、落ちた。それはひどい矛盾だった。家の方針は気持ち悪い。それは変わらないのに、私はそれを容易く為せてしまう。
顔を覆う私に、彼女は何も言わずそばにいた。
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作者名：べにしょうが | 作成日時：2022年5月7日 19時
