055.わからない ページ10
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御幸
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なにを、聞いてるんだ俺は。
葉月の瞳が動揺して揺れ、正気に戻るととんでもない発言をしたのだと初めて理解した。
気にならないといえば嘘になる、が。
振った張本人が尋ねるべきじゃない質問だとは、さすがにわかる。
「……答えづらいことを聞くね御幸は」
「あ、いや…」
さっきの質問を取り消そうと思ったら、困ったようにへらっと笑って葉月が口を開いた。氷嚢を下ろし、「はっきり言っていい?」と首を傾ける。
そんな風に見つめられては、頷くことしかできなかった。
なんか、変な感じがする。
別れて葉月と友達に戻ってからは、この状況のように葉月と二人きりで話すことはほとんどなかった。倉持も合わせた三人で話していたから。
二人だけで一緒にいたときの葉月は、俺のことが好きな葉月だった。
「私ね、今はわかんないんだ」
「え?」
「御幸のことどう思ってるのか」
俺もわからない。
葉月のことをどう思ってるのか。
「でも心配しないで。もう振り返るつもりはないから」
「…」
「前に進むんだから。ちゃんと御幸の友達にだって戻ってみせるし」
髪が少し伸びた葉月の目には迷いなんか一切なくて。曇りのない晴れた笑顔が、不謹慎にも綺麗だと思った。
時間は進む。
時間だけじゃなくて、気持ちも前に進んでいく。
______私、やっぱり御幸と友達に戻りたくない
自分の望んだ展開へと着実に動いていて、
それを一番願ったはずなのに、
______…………御幸が好きです
前の自分の願望が嘘へと変わって。
心を騙すためにまた嘘を重ねる。
これでよかったんだ、と。
「御幸は次はちゃんと、好きになった人を彼女にしなよ?」
目の前にいる彼女は、もう俺を好きでいてくれてる葉月じゃない。
それを知ってしまったら。
今まで眠っていた感情が蓋を開けて表に出てくる。
胸に引っかかる、居心地の悪いこの感情の正体は。
葉月の手首を掴み、驚いた様子の彼女と目を合わせながら少し屈む。ゆっくりと顔を近づけ、拒否されてないことを確認してその距離をゼロにする。
目を瞑って唇に柔らかい感触。心が満たされてゆく。
葉月の手から氷嚢が落ちたところでパッと顔を離す。
「……み、ゆ」
「んじゃ、ちゃんと顔冷やしとけよ」
俺は今何をした?
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ましゅまろーず(プロフ) - 麻奈さん» 成宮くんはなんだかんだで葉月の幸せを願ってすれ違ってしまいました…書いてるこっちも辛いです(ノ_<) (2017年12月13日 19時) (レス) id: a527da2431 (このIDを非表示/違反報告)
ましゅまろーず(プロフ) - ホイップクリームさん» 自分の気持ちを誰かに伝えるって本当に難しいですよね…ホイップクリームさんに共感していただき嬉しいです!高校生編では結局葉月はどっちともくっつきませんでした、、続編でもホイップクリームさんとお話できると嬉しいです!これからもよろしくお願いします(*´-`) (2017年12月13日 19時) (レス) id: a527da2431 (このIDを非表示/違反報告)
麻奈(プロフ) - 鳴いぃぃ…(´;ω;`)そんな鳴も私は好きだよォ…(;Д;)(;Д;) (2017年12月9日 8時) (レス) id: 4a91041800 (このIDを非表示/違反報告)
ホイップクリーム(プロフ) - いつもお話していただいてすごく楽しいです! これからも仲良くしていただけたら嬉しいです!これからもよろしくお願いします! (2017年12月8日 22時) (レス) id: 05e300014f (このIDを非表示/違反報告)
ホイップクリーム(プロフ) - なんかもうすごいです…上手く言えなくてすみません…!! 人に想いを伝える事の難しさが表されていてとても心に響きます!ましゅまろーずさんの作品本当に皆の想いが伝わってきますね!私には出来ません…すごく尊敬しています!! (2017年12月8日 22時) (レス) id: 05e300014f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ましゅまろーず | 作成日時:2017年8月12日 11時