089.夢みたいだった ページ44
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成宮
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前よりは陽が落ちるのが遅くなったけど、夜はやっぱり真っ暗だ。帰り道がやけに寒く感じるのは冬の気候のせいか、それとも。
ふと足を止めて少しだけ振り返る。
しかし目当ての人物はもちろんいなくて、胸が痛むのに気づかないようにして再び歩き出す。
好きな人の幸せを願うって側から見ればかっこいいけど、この時の俺の選択は正しかったのか。
野球一筋の人生だったし、俺にはよくわかんない。
少なくともこれだけは言える。
身を引いてカッコつけたふりをして、ほんとは逃げただけだったのだと。
心から葉月のことを想っていたなら、一也に譲っちゃいけなかった。
自分の手で繋ぎ止めないといけなかった。
わかってたよ、
一也が勝手に葉月を抱き締めてただけなんだって。
あんな二人を見てそう察しない奴はいない。
嫌われ役を買って彼女を突き放したのは、俺の役目を終わらせるため。
一也が葉月を好きになったんなら、俺はもう彼女の側に居てあげる理由がない。
……なんていうのは自分の行動を正当化するための建前で。
だって俺、見ちゃったんだ。
一也に抱き締められた葉月が一也の背中に手を回しかけているのを。
葉月が奥歯を噛み締めて辛そうな表情をしていたのを。
好きな子のそんな顔なんて、男なら誰だって見たくないだろ。
そしてその原因は紛れもなく俺自身なんだ。
「……あーあ、だっせ」
関東ナンバーワン投手が、
失恋したくらいで泣くなんてさあ。
頬を滑り落ちる熱い涙を服の袖で乱暴に拭き取る。
これ以上涙が溢れてこないように上を向けば、そこにはまばらに輝く星の海が広がっていた。それはもう嫌になるほど綺麗に。
そういえば葉月と一也のデートを目撃してしまった夏祭りの日も、多数の星が輝いていた。
______私、成宮のこと好きだよ
夢かと思った。
夢みたいだった。
夢みたいな日々だった。
俺が好きって言って
葉月も好きだって言ってくれた。
たったそれだけのことが、俺にとってはこの上ない奇跡だった。
この日、葉月を突き放したことに俺はこの先何度も何度も悔やむんだろうな。
それでもいいや。
君を想っていた今日まで、俺はすごく幸せだったんたから。
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ましゅまろーず(プロフ) - 麻奈さん» 成宮くんはなんだかんだで葉月の幸せを願ってすれ違ってしまいました…書いてるこっちも辛いです(ノ_<) (2017年12月13日 19時) (レス) id: a527da2431 (このIDを非表示/違反報告)
ましゅまろーず(プロフ) - ホイップクリームさん» 自分の気持ちを誰かに伝えるって本当に難しいですよね…ホイップクリームさんに共感していただき嬉しいです!高校生編では結局葉月はどっちともくっつきませんでした、、続編でもホイップクリームさんとお話できると嬉しいです!これからもよろしくお願いします(*´-`) (2017年12月13日 19時) (レス) id: a527da2431 (このIDを非表示/違反報告)
麻奈(プロフ) - 鳴いぃぃ…(´;ω;`)そんな鳴も私は好きだよォ…(;Д;)(;Д;) (2017年12月9日 8時) (レス) id: 4a91041800 (このIDを非表示/違反報告)
ホイップクリーム(プロフ) - いつもお話していただいてすごく楽しいです! これからも仲良くしていただけたら嬉しいです!これからもよろしくお願いします! (2017年12月8日 22時) (レス) id: 05e300014f (このIDを非表示/違反報告)
ホイップクリーム(プロフ) - なんかもうすごいです…上手く言えなくてすみません…!! 人に想いを伝える事の難しさが表されていてとても心に響きます!ましゅまろーずさんの作品本当に皆の想いが伝わってきますね!私には出来ません…すごく尊敬しています!! (2017年12月8日 22時) (レス) id: 05e300014f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ましゅまろーず | 作成日時:2017年8月12日 11時