086.これからも ページ41
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何を言われるかなんてわかってる。
それでも、御幸のあんな切なげな目を初めて見たような気がして、最後なんて言い切られたら逃げるわけにもいかなかった。
「よかったな」
ちょうどグランドから戻る途中の監督を捕まえて合格の報告をすればただ一言そう呟いて笑ってくれた。
小さく上がった監督の口元に、
今更やっとああ受かったんだって実感が湧いてちょっぴり泣きそうになる。
「お前が今まで頑張ってきた結果だ」
「……はいっ」
陽が落ちて辺りが真っ暗に染まる。
選手じゃないただのマネージャーの私にさえ、監督は心のこもった言葉をくれた。
きっと監督と二人で話すのはこれが最後だ。
……最後。
ふとあのメガネの顔が浮かんだ。
深々と頭を下げてお辞儀し、
それから校門の方へと向かう。
御幸とつきあってからいろいろなことがあった。
たくさんの経験をして、たくさんの感情を知って、
大切なものを失って、大切なものを得た。
自然と歩みが速くなっていく。
三年間の思い出の詰まった学び舎を背に、校門で寄りかかって私を待ってる人の方へと近づいていく。
まるで走馬灯のように記憶が流れ込んできて、自分が何を選びたいのか、その決断を固めさせる。
______俺、前からずっと葉月のことが好き
______お前が鳴の彼女でも、本気で奪いたい
私は、……私は。
胸の前で拳を握り「御幸っ!」とスタイルの良い背中に呼びかける。
ゆっくりと振り向いた彼は穏やかな顔をしていた。
ふっと笑った拍子に白い息が漏れる。
御幸はズボンのポケットに手を突っ込んだまま「……監督、喜んでくれた?」と訊いた。
「うん、お前が頑張った結果だって」
「…そうか」
「…………御幸、私ね」
「待って」
「先に何も言うな」と片手で私の口を覆う。
こくりと頷けばやっと手を離してくれて、御幸はスーハーとこれまた沢村くんみたいな深呼吸をし、真っ直ぐな瞳で私を見た。
野球をしてる時以外はほとんど見せない真剣な顔。かつて私が惹かれた彼の姿。
「……葉月のことたくさん傷つけたし泣かせたと思う。今更どの面下げて言ってんだってむかつくかもしんねえけど」
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「これからも隣にいてほしい。葉月が好きだ」
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ましゅまろーず(プロフ) - 麻奈さん» 成宮くんはなんだかんだで葉月の幸せを願ってすれ違ってしまいました…書いてるこっちも辛いです(ノ_<) (2017年12月13日 19時) (レス) id: a527da2431 (このIDを非表示/違反報告)
ましゅまろーず(プロフ) - ホイップクリームさん» 自分の気持ちを誰かに伝えるって本当に難しいですよね…ホイップクリームさんに共感していただき嬉しいです!高校生編では結局葉月はどっちともくっつきませんでした、、続編でもホイップクリームさんとお話できると嬉しいです!これからもよろしくお願いします(*´-`) (2017年12月13日 19時) (レス) id: a527da2431 (このIDを非表示/違反報告)
麻奈(プロフ) - 鳴いぃぃ…(´;ω;`)そんな鳴も私は好きだよォ…(;Д;)(;Д;) (2017年12月9日 8時) (レス) id: 4a91041800 (このIDを非表示/違反報告)
ホイップクリーム(プロフ) - いつもお話していただいてすごく楽しいです! これからも仲良くしていただけたら嬉しいです!これからもよろしくお願いします! (2017年12月8日 22時) (レス) id: 05e300014f (このIDを非表示/違反報告)
ホイップクリーム(プロフ) - なんかもうすごいです…上手く言えなくてすみません…!! 人に想いを伝える事の難しさが表されていてとても心に響きます!ましゅまろーずさんの作品本当に皆の想いが伝わってきますね!私には出来ません…すごく尊敬しています!! (2017年12月8日 22時) (レス) id: 05e300014f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ましゅまろーず | 作成日時:2017年8月12日 11時