【◇】ばつこい II

050.球技大会 ページ5

.





ころころとゆっくり転がってきたサッカーボールに、御幸はまさかの空振りを披露。

いや、あれは蹴れるでしょ…。
小学生の女の子だってまともにパスを返せるレベル。





「いつ見ても下手だなあ…」

「ほんとにね」





受験生の息抜きとしてこの時期に行われる球技大会。

まだ出番ではない私は他クラスの唯と一緒に座って男子のサッカーを見物している。ちなみに幸子は体育館でバレー中だ。


容赦無く吹いてくる冬の寒い風に、ジャージのファスナーを全部上げる。手がかじかんできた。





「野球しかできない御幸に対して、倉持はサッカーもそこそこ上手いよね」

「足も速いし、スポーツは全般向いてるのよ」

「体育祭マジックならぬ球技大会マジックとか起きたら倉持モテ期じゃん」





ふざけてそう言えば、唯は私の肩を叩いて「なにそれ」と白い息を吐いて笑った。





「Aは御幸の応援しないの？」

「は、あんな下手っぴ応援する気にもなんない」

「それもそうか」





唯と雑談を交わしているとわあっと女子達の黄色い歓声が上がった。

試合の方に視線を戻せば、「ひゃはは！」といつもの独特な笑い声をあげてチームメイトの男子とハイタッチをする倉持の姿が。

「ナイッシュー倉持くん！」とあちこちから聞こえるから、倉持がシュートを決めたのかな。しまった、シュートシーン見逃した。


にしても女子のこの歓声。
本当に倉持モテ期到来しそう。



試合は相手チームの攻撃から再開し、御幸達は守備につく。ドリブルする敵を真冬なのに汗を流して追いかける御幸に、押さえてきた感情が蓋を開けそうになる。





「……スポーツ上手い人ってかっこいいよね」

「あー、かっこいいね」

「だからスポーツ下手な姿を見れば少しは気持ちも冷めるかなって思ってたけど、」

「……」





一生懸命な姿はやっぱりかっこいい。





.

051.永遠に→←049.俺のことで

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す