085.最後に ページ40
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「失礼しましたー」
ガラッと職員室の扉を閉める。
廊下を彷徨う空気は冷たいのに、体は内側からポカポカとしていて世に言う“浮かれている”という状態。
あの緊張の入試を乗り越え、そしてついに今日合格発表の日を迎えた。
結果は見事に合格。
そして有頂天なままお世話になった担任の先生に報告をした。先生は親身になって喜んでくれて、先生の姿にまた嬉しさが込み上げた。
次は監督達にも報告しに行こう。
いや部活をやってる最中だから、終わるまで待ってようかな。
暇潰しでもしようかとひとまず校舎を出た。
すっかり訪れる機会の減ったグラウンドは、もうすっかり自分の知らない世界になっていた。
沈む夕陽をバックに、声を出して練習に励む後輩達。見慣れていたはずの光景が真新しいものへと変わる。
「そんなとこにいないで、あいつらに声掛けてやりゃいいじゃん」
グラウンドから少し離れた場所で野球部の様子を伺っていれば、ふいに後ろから掛けられた声。
私のことを好きだと言ってくれた人の声。
何事もなかったかのように私の隣に並ぶ御幸に、
動揺したら負けだと何故か思い込み、
「練習の邪魔になっちゃうもん」といつもの調子で言いのける。
「てか学校くんの久しぶりじゃね?」
「大学の合格発表だったから、先生達に結果の報告をしに来たの」
少しの間を置いて「受かったよ」とドヤ顔でピースサインをすると、御幸は「おー、おめでと」とふんわりと笑った。
その笑顔につい見惚れてしまった。
「…ありがとう」
「頑張ったな、葉月」
そう言って私の頭をポンポンと軽く叩く。
前より笑顔とか声とかが、
柔らかく優しくなった気がする。
なんて言うんだろ、
喋ってるだけでこの人は私のことが好きなんだなって伝わってくるっていうか。
御幸ってこんなにわかりやすい人だったっけ?
忘れかけていた想いを思い出して苦しくなる。
ダメだ、これ以上この人といてはいけない。
そろそろ部活が終わる。
監督達に報告して、その後は成宮が青道まで来てくれるから校門付近にいよう。
一瞬のうちで今後のスケジュールを決め、「じゃあ私、部活終わったら監督にも報告しに行くから」と強引に話を切り上げようとするが。
「報告終わったら、ちょっとだけ俺に時間くれない?」
御幸は眉を下げて「…これでほんとに最後にするから」と淡い夕陽に照らされながら言った。
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ましゅまろーず(プロフ) - 麻奈さん» 成宮くんはなんだかんだで葉月の幸せを願ってすれ違ってしまいました…書いてるこっちも辛いです(ノ_<) (2017年12月13日 19時) (レス) id: a527da2431 (このIDを非表示/違反報告)
ましゅまろーず(プロフ) - ホイップクリームさん» 自分の気持ちを誰かに伝えるって本当に難しいですよね…ホイップクリームさんに共感していただき嬉しいです!高校生編では結局葉月はどっちともくっつきませんでした、、続編でもホイップクリームさんとお話できると嬉しいです!これからもよろしくお願いします(*´-`) (2017年12月13日 19時) (レス) id: a527da2431 (このIDを非表示/違反報告)
麻奈(プロフ) - 鳴いぃぃ…(´;ω;`)そんな鳴も私は好きだよォ…(;Д;)(;Д;) (2017年12月9日 8時) (レス) id: 4a91041800 (このIDを非表示/違反報告)
ホイップクリーム(プロフ) - いつもお話していただいてすごく楽しいです! これからも仲良くしていただけたら嬉しいです!これからもよろしくお願いします! (2017年12月8日 22時) (レス) id: 05e300014f (このIDを非表示/違反報告)
ホイップクリーム(プロフ) - なんかもうすごいです…上手く言えなくてすみません…!! 人に想いを伝える事の難しさが表されていてとても心に響きます!ましゅまろーずさんの作品本当に皆の想いが伝わってきますね!私には出来ません…すごく尊敬しています!! (2017年12月8日 22時) (レス) id: 05e300014f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ましゅまろーず | 作成日時:2017年8月12日 11時