【◇】ばつこい III

117.動き出した時間 ページ27

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成宮


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隣にいられなくても、

葉月が笑顔でいられるならそれでいいと思ってた。


でも、いくらなんでも、

海の外なんて遠すぎるだろ……。





「…いつ？」

「今日」





別れの言葉さえ言わせてくれない。

目の前に突きつけられた現実は、底が見えないほど残酷で、一気に光のない暗闇へと誘った。


一也からの詮索するような視線が痛くて「…だから何。俺に関係あるわけ」と逃げるように背を向けて意地を張ることしかできない。

自分の本心と真反対のことを言うのは、すごく胸が痛かった。


「用が済んだなら帰って」と振り返らずに早口で言えば「つまんねー意地張んなよ鳴」と腕を掴まれた。





「ほんとは気になってるんだろ」

「…別に」





意地くらい張らせてくれよ。
俺に少しでも悪いって思ってるなら。


腕を振り払おうとするが、一也は掴んだまま離さない。むしろ力は強くなってついに顔を歪めてしまうほど。





「ちょ、一也いい加減に____」

「鳴」





強くなるばかりだった力が緩むと同時に、振り返ってみれば一也の顔は穏やかだった。





「良いこと教えてやるよ」





するり、離された手。





「俺と葉月、つきあってるわけじゃねーから」





今にも壊れてしまいそうなくらい儚い表情に、目が離せなくなった。

それは俺が現実を受け止めた瞬間だった。





「葉月が隣にいてほしいのはお前だよ、鳴」





一也はすごい。

そのたった一言で俺の気持ちを固めてしまったんだから。

行き場がなく彷徨っていた想いが、再び原型を留める。





「今から行けば間に合うから行ってこい」





止まってた時間が、動き出す。





「……うん行ってくる！！」





ただ君に会いたくて
繋ぎ止めたくて

一也を置いてけぼりにして家を飛び出した。





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