【◇】ばつこい III

116.焦りもする ページ26

.


成宮


.






「(勝手なことばかり言うなよな…)」





気分転換にジャージを着てランニングしてる間、この前飲みに行った時に樹に言われた言葉が頭を駆け巡っていた。

朝の爽やかな気候に似合わないもやもやした感情が体に広がってゆく。



迎えに行けとか
好きだと伝えろとか

第三者はそう言うのは簡単だよな。



こっちがどんだけ躊躇してるのかも知らずに。





そもそも一也とつきあってんなら、それは俺が望んだことだし、葉月は幸せを掴み取ったはず。

これが、俺が願った未来であって。

変える必要のない現実。

俺の出る幕なんてない。


葉月の望む未来の先に、俺はいなくていい。


本当は俺だって好きな人に好きって言いたいけど。
俺が我慢して葉月が幸せになれるのなら、辛くたって身を引ける。



ぐだぐだと答えのない考え事をしているといつの間にか1時間以上走り続けていた。









「鳴！！」





昼下がり、インターホンを押されたと思えば扉をガンガン叩かれた。

いや、インターホンか叩くかどっちかにしろよ。

そんなツッコミを繰り出せないほど、珍しい来客は焦った表情をしていた。





「なに？一也」

「…」

「珍しいじゃんお前がそんなに慌ててるの」





なになに？
俺なんかやらかしたっけ。
一也の逆鱗に触れるようなことはしてないけど。


一也は扉を支えてふうっと溜息を吐き「…鳴、何も知らねーのか」とやけに真剣な目つきで言った。

一也がなんのことを指して言ってるのか見当もつかなかったけど、……嫌な胸騒ぎがした。





「……なんのこと？」





動揺してるってバレるのがかっこ悪いから、あくまで平静を装って聞き返す。

一也は扉を閉めて玄関に入り込んだ。





「……葉月が、ロンドンに行くらしい」





平静を装う努力も水の泡で、「え」とただ一言目を見開いて呟いた。





.

117.動き出した時間→←115.Let's go

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す