【◇】ばつこい III

113.迷わない ページ23

.





自分の気持ちに気づかないようにして
気づいてはいけない理由を探して、

傷つきたくないからって逃げてばかりいた。



今ある想いを伝えずに沈めてしまうのは、後悔しか残らないとわかってるはずなのに。

高校生の時に痛いほど実感した。

私はそれを、また繰り返す気？




そんなの嫌だ。





「…そもそも、こうなったのは俺のせいだよな」

「…え？」

「俺が葉月に余計なことしなければ、きっとお前と鳴は今もまだつきあってた」





普段は余裕たっぷりな御幸が、気まずそうに目を逸らして小さな声で言った。

初めて見るその表情に彼の誠意が心に響いた。





「……ごめん」





椅子から腰を浮かせて床に座り込んでる私に目の高さを合わせ頭を下げようとする。

私はただ首を横に振った。


高校生なんてまだ大人になりかけの子供で、何が正解かもわからないままがむしゃらに突き進む若さがあった。

だから間違えなんてザラにあることだし、御幸だけが謝ればいいなんて簡単なものじゃない。

みんながみんな未熟だから、あの結果を招いてしまったんだ。もちろん私も。





「御幸が謝ることじゃないよ」





御幸は目を見開き、俯いて唇を噛み締める。


性格が悪いと言われまくった彼だって、キャプテンを任されるほど根は真面目な性格だったし、

もしかしたらずっと私と成宮のことで責任を感じていたのかもしれない。





「私、正直あの時は御幸にも心を揺られていたんだと思う。だから御幸のせいなんかじゃない」

「…」

「…でもね」





御幸の顔を見て晴れた笑顔を浮かべる。





「もう迷わない」

「…ああ」





御幸も笑い返してくれた。


そしてパッと立ち上がり、「ご飯食べちゃって」と促す。

向かい合って座る私達。

遠のいていたテレビの音が鮮明になってくる。





「成宮には彼女がいるかもだけど、もう一回だけ頑張ろうと思う」

「あー、それガセだよ」

「はあ！？」

「あいつ警戒心薄いからな、写真撮られやすいんだ」





御幸は間抜けな声を上げる私の反応を楽しんでるかのようにいたずらっぽくケラケラ笑う。

なんだ、ほんとじゃなかったんだ。
ここ最近の悩みのタネが解決して、
ホッと胸を撫で下ろす。





「…葉月どっか行くのか？」





しばらくテレビを見ていると、御幸が表情を落ち着かせて私の部屋にあるキャリーバックを指差した。

私は眉を下げて力なく笑う。





「…………もうすぐね、ロンドン行くんだ」





.

114.だって彼女は→←112.戻りたい

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す