108.ずっと ページ18
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「…あの、」
パソコンから気を離して肩をぐるぐる回していると多田野くんが控えめに声を掛けてきた。
「どうしたの?」
「葉月さんってもしかして青道高校出身で__」
「ああ、うん。そうだよ」
「やっぱり」と目を輝かせる多田野くんに、「多田野くんは稲実でしょ?しかも正捕手」と得意げに言えば「覚えてたんですか…!」と少し驚いた表情をした。
覚えてるに決まってる。
あの成宮とバッテリー組んでたんだから。
多田野くんが入社してきた日から気づいていた。
「ライバル校のキャッチャーなんて忘れるわけないよ」
「葉月さんはマネでしたよね?」
「そーそー、多田野くんこそ記憶力いいね。普通他校のマネージャーなんて覚えてないよ」
一般論だ。選手は目立つけれど、マネージャーは裏方だから他校の人になんて覚えられる方が珍しい。
そう思い問いかけると「あー…」と頬をかいて苦笑いを浮かべた。
「ウチの野球部では有名でしたから。葉月さん」
「え?」
「鳴さんの意中の相手だって」
「…」
なにそれ、すごく恥ずかしい。
じゃあ私達の関係、稲実の人には筒抜けだったってことか。
「この前見たときに気づいたんですけど、葉月さんがお財布に付けてるお守りって鳴さんから貰ったものですよね?」
「……うん。受験のお守りにって」
多田野くんはその時のことを思い出してるのか、遠い一点を見つめてくすっと笑う。
そして彼の放った言葉は私の心に深く突き刺さった。
仕事中にも関わらず目に涙を溜め始める私に多田野くんがオロオロするくらいに。
私は馬鹿だ。
どうしてこうも、気づくのが遅いのか。
大切なものは、
手に入れたいものは、
ずっと前からたった一つだったのに。
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ましゅまろーず(プロフ) - shinox2さん» コメントありがとうございます!いやもうそんな成宮くんとか東条くんの言葉を覚えるほど読んでくださって感謝感激です( ´ ▽ ` ) 随分と頭をひねってその言葉を考えたので、shinox2さんに共感してもらえて嬉しいです頑張った甲斐があった…笑 (2018年2月8日 20時) (レス) id: a527da2431 (このIDを非表示/違反報告)
ましゅまろーず(プロフ) - 真奈さん» 最後までお読みくださりありがとうございます…!私もオチは成宮くんとは決めていたものの、御幸くんでも良いんじゃないかって迷った時もありました笑 彼にも報われて欲しいですよね(´ー`) ネタさえ浮かべば御幸くんオチのも作りたいですが作るか検討中です!笑 (2018年2月8日 20時) (レス) id: a527da2431 (このIDを非表示/違反報告)
shinox2(プロフ) - 泣きました!大分泣きました!!何て感想を表したらいいか分かんないくらい泣かされました(^-^) 鳴ちゃんの言葉で主人公が気付いてしまった言い方の違い。東條君が主人公に助言した言葉。共感というか納得というか...ずっと頭から離れません(>_<) (2018年1月29日 22時) (レス) id: c23d485c4b (このIDを非表示/違反報告)
真奈 - 完結おめでとうございます。最近読み始めたばかりですがずっと楽しみな作品でした。私事ですが社会人編からanother storyみたいに御幸君落ちを書いてもらえないかなと思いました。見始めた当初から両方の落ちを見たいなぁと思っていました。これからも応援しています。 (2018年1月29日 8時) (レス) id: 48b39465b4 (このIDを非表示/違反報告)
ましゅまろーず(プロフ) - ゆのさん» 少女漫画みたいな恋愛書きたいなーと思っていたのでゆのさんに伝わっていたみたいで嬉しいです! 御幸を振って成宮と結ばれた葉月には本当に幸せになってもらわなきゃですね!笑 こちらこそ長い間、最後までお読みくださりありがとうございました!! (2018年1月28日 23時) (レス) id: a527da2431 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ましゅまろーず | 作成日時:2017年12月24日 22時