103.すべてを飲み込んだ ページ13
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前を歩く成宮も私も傘を持っていなくて、その間も容赦なく雨が降り注いだ。
スーツに染みる雨は冷たいけど、繋いだ手から伝わる温もりは暖かい。
駅に着き屋根のあるところで成宮は足を止めた。
「…こんな時間に女一人で危ないだろ」
振り返り、するりと離れた手。
「せめて一也呼ぶとか、自分の安全確保しなよ」
「?なんで御幸……?」
「…………ま、どーでもいいけど」
そう呟き言葉に詰まって不機嫌そうに顔を逸らす。
どうして私と御幸が結びついたんだろ。
成宮は何か勘違いしてる…?
でも、そんなこと聞く勇気はない。
雨で貼り付いた前髪から覗く目と視線が絡まってドキリとする。
ポタ、と白い髪から水滴が落ちる。
「(こんな時まで…)」
知らない男の人に絡まれた恐怖なんか忘れて、
ただこの目の前にいる彼に見惚れてる。
耳を澄まさなくても聞こえる速まる鼓動。
「……元気だった?」
再び視線が絡まったところで投げかけた質問に成宮は「…うん」と一拍遅れて答えた。
こっちはよくテレビで活躍してるのを見てるから元気にしてるのはわかってたけど。
何か話していたくて。
繋ぎとめたくて。
「さっきは、……助けてくれてありがとう」
「……ん」
言いたいことはもっとたくさんあるのに。
あの熱愛報道が本当なのかも聞きたいけど、
私なんかに聞く権利はない。
言葉が頭の中でこんがらがって、真っ白になって、溶ける。
「…もし、そのびしょびしょな格好で電車に乗りたくないんなら、俺の車に乗ってもいいけど」
「…」
「どうする?」
探るような目つきはまるで私を試してるみたい。
変わってないね、成宮は。
なんだかんだでいつも手を差し伸べてくれる。
こんなに優しい人に会ったことないよ。
「……ううん、大丈夫。電車で帰るよ」
「…そ。なら俺もう行くから」
名残惜しさを一切感じないほど、成宮は私の横を通り過ぎて行く。
待って、……まだ、行かないで。
就活の面接時と同じくらい心臓がバクバクしてる。
「……っ成宮!」
とにかく無我夢中になって私の目にはゆっくりと振り返る成宮しか映らない。
言いたいこと聞きたいことがたくさんあるんだよ。
「なに?」
「……あ、えっと……」
「…」
「……野球、頑張ってね」
「…ありがと」
今度こそ遠のいていく背中。
伝えたいことを飲み込んだ私に残ったのは後悔だけ。
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ましゅまろーず(プロフ) - shinox2さん» コメントありがとうございます!いやもうそんな成宮くんとか東条くんの言葉を覚えるほど読んでくださって感謝感激です( ´ ▽ ` ) 随分と頭をひねってその言葉を考えたので、shinox2さんに共感してもらえて嬉しいです頑張った甲斐があった…笑 (2018年2月8日 20時) (レス) id: a527da2431 (このIDを非表示/違反報告)
ましゅまろーず(プロフ) - 真奈さん» 最後までお読みくださりありがとうございます…!私もオチは成宮くんとは決めていたものの、御幸くんでも良いんじゃないかって迷った時もありました笑 彼にも報われて欲しいですよね(´ー`) ネタさえ浮かべば御幸くんオチのも作りたいですが作るか検討中です!笑 (2018年2月8日 20時) (レス) id: a527da2431 (このIDを非表示/違反報告)
shinox2(プロフ) - 泣きました!大分泣きました!!何て感想を表したらいいか分かんないくらい泣かされました(^-^) 鳴ちゃんの言葉で主人公が気付いてしまった言い方の違い。東條君が主人公に助言した言葉。共感というか納得というか...ずっと頭から離れません(>_<) (2018年1月29日 22時) (レス) id: c23d485c4b (このIDを非表示/違反報告)
真奈 - 完結おめでとうございます。最近読み始めたばかりですがずっと楽しみな作品でした。私事ですが社会人編からanother storyみたいに御幸君落ちを書いてもらえないかなと思いました。見始めた当初から両方の落ちを見たいなぁと思っていました。これからも応援しています。 (2018年1月29日 8時) (レス) id: 48b39465b4 (このIDを非表示/違反報告)
ましゅまろーず(プロフ) - ゆのさん» 少女漫画みたいな恋愛書きたいなーと思っていたのでゆのさんに伝わっていたみたいで嬉しいです! 御幸を振って成宮と結ばれた葉月には本当に幸せになってもらわなきゃですね!笑 こちらこそ長い間、最後までお読みくださりありがとうございました!! (2018年1月28日 23時) (レス) id: a527da2431 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ましゅまろーず | 作成日時:2017年12月24日 22時