キミはボクの宝物 vol.1【kazunari.N】 (ページ5)

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1人目　知的な男ページ5

商品開発部での最後の仕事になったもの。

今夏から発売予定の“Water bell”というノンシリコンシャンプーだった。

赤・青・黄・緑・紫の5色展開。

同シリーズのトリートメントは置き時間によって香りが変わるという、初めての試みだ。

この5色だったら、嵐を起用するのはわかるな……。

そんな風に冷静になって考えるあたしは、オトナになった証拠。

和が転校してしまったことがわかったあの日以来、あたしと和が会うことはなかった。

隣同士の実家でも、芸能活動をしている和との生活リズムは全く違う。

偶然でも会わない日々を数年過ごし、20歳を過ぎた頃には和が家を出た。

そしてあたしも半年前、別部署の彼氏との同棲を始める為に家を出た。

あたし達を繋ぐものなんて、もう何一つない。

部長からこれまでに決まったことの説明を受け、簡単に引き継ぎをする。

国民的アイドルの彼らは全員で纏まった時間を取ってもらうことが難しく、初回の打ち合わせは個人個人で行うとのこと。

事務所サイドから送られてきたスケジュールのFAXを確認して、iPadに入れていく。

1人目は櫻井さんだった。

当日。

午前中は他の仕事があるとのことで、夕方から本社へ来たもらった。

『広報担当の仁科です』

「櫻井のマネージャーの正木です」

翔「櫻井です。宜しくお願いします」

テレビで観る通りの、礼儀正しい知的な櫻井さん。

商品説明とCMコンセプトを簡単に説明する。

櫻井さんは目の前に並べた商品を手に取り、キャップを外して香りを嗅ぎ始めた。

『今回の商品は5色展開となりますので、個人と全体の6パターンで撮影させていただきたいと思います』

翔「個人ってことは……、俺は赤ですよね……？(笑)」

『ハイ………(笑)』

わかりきった質問をしてくる櫻井さんが可笑しくて、つい漏らしてしまった笑み。

そこからは場の雰囲気が和み、色々と質問が飛んで来た。

櫻井さんは商品を気に入ってくださったのか、香りの変化について詳しく聞いてきた。

『5分毎に香りが変化します。2段階まではどの商品も同一の香りですが、こちらの赤は最終がローズですね』

翔「他は何の香りですか？」

『左から順にペパーミント、ジャスミン、グリーンアップル、ラベンダーです』

今回引き受けていただいたお礼として、このヘアケアセットと当社の商品を詰めた紙袋をお渡しする。

翔「じゃあまた撮影で……」

無事に1人目の打ち合わせが終了した。