210.逃避行 ページ1
ああしたら
こうすれば
きっと言ったらそれに切りはないってわかっていても
あの時の私は自分がどうしたいかなんて見えてなかったのかもしれない
テーラーとしての生き甲斐も
二宮さんとの尽きぬ愛しい時間も
私には天秤にはかけられなくて
私にはどちらも正解で
どちらも不正解に思えた
二宮「Aちゃん、今どこ？」
お店から出て
どれくらい歩いたのか
頬にあたる雨粒に我にかえると鞄にしまった折り畳み傘を出そうとあけた時に見えたスマホ
「ごめんなさい」
着信があった事をを教える青いランプが柔らかく点滅していた
見ると二宮さんからの着信履歴
心配させてはいけないと直ぐにかけ直した
二宮「何が？」
1コールもなく繋がった彼との電話
きっと心配してくれてたんだろうって
二宮「A？今どこにいるか、それだけでいいから教えて？」
その声が私だけの事を考えてくれてるってわかるから
「今夜は友人の家に泊めてもらいます」
二宮さん
貴方はきっと私のために自分すら盾にしてしまうって
さっき、言い訳もせず私を守ってくれたあの猫背な背中に思ったの
二宮「……………わかった」
問いただすこともせず私の言葉に返事をしてくれた彼
「おやすみなさい」
二宮「おやすみ」
通話を切ったスマホは雨にじゃなく
涙のたまった視野に滲んで見えた
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作者名：2-38
| 作成日時：2019年9月22日 9時
