彼のスーツを脱がす時８【NINO】 (ページ2)

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友人の家に…

私にはこんな時に頼れる友人も知人もいなかった

スマホの電話帳は二宮さんにこのスマホをもらってから今でも連絡をとる必要最低限の人達の連絡先しか入っていない

お母さん…

無理

苦労ばかりしてきた母に心配をかけることだけはしたくない

そっととじたスマホのディスプレイ

暫く宛もなく雨の中を歩くと見覚えのある看板に

お腹が鳴った

こんな時でも素直に空腹を教えてくれる自分の身体にかける言葉もないけど

重たい扉をゆっくりと開いた

倫也「いらっしゃ……」

カウンターの中にいる中村さんは私にビックリしたように子犬のようなまあるい瞳を見開く

「こんばんは」

だけどそれは一瞬で

倫也「Aさん」

柔らかな笑顔に私の名前を呼んでくれて、覚えていてくれたことに

何だか全ての緊張感がとけたような気がした

「…まだ、いいですか？」

倫也「勿論、こっちでいい？」

カウンターの席を用意してくれた中村さん

「はい」

お客さんはあの日とは真逆に私だけだった

カウンターの真ん中

スツールに座るとおしぼりを出してくれた

倫也「何にする？」

中村さんの後ろには無数のアルコールの瓶

銘柄を見ても私にはわからないしお洒落なカクテルの名前もわからない

それ以前にこんな日にアルコールに逃げるのはよくないと思った

「…えっと、アルコール以外でってありますか？」

私の言葉にキョトンっとする中村さん

倫也「水ぐらいしかないけど」(笑)

そりゃそうだよね

barなんだからお酒を楽しむ場所なのに何て失礼なことを

「すみません、えっ…と、どうしようかな」

だけど

倫也「あっ…でもお任せでいいならあるよ」(笑)

困る私に助け船を出すように悪戯に笑う中村さん

「えっと…それじゃお任せで」

倫也「りょーかい、あと、酒飲んでないなら食べれるよね？」

「はい」

倫也「待っててね」

そう言って優しく笑うと手際よくカウンター内のキッチンでしたくを始めた

倫也「とりあえず"お任せ"品ね？」

最初に出てきたのは温かで

「ありがとうございます」

いい香りのする飲み物だった

「…これは？」

倫也「ハーブティーに少しだけウィスキーをおとしたやつ、アルコールは熱でとんでるから大丈夫だよ」

口にすると

「ん…」

甘い香りに反してスッキリした味

倫也「どう？」

「美味しい」

私が今一番欲しているものが出てきた事に何故か目頭が熱くなる

倫也「よかった」