彼のスーツを脱がす時７【NINO】 (ページ13)

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193.水曜日の雨←8/29 ページ13

松坂「こんにちは」

雨が視界を遮るような強さになった夕方

「こんにちは、お待ちしておりました」

傘をさしていても服が濡れてしまった松坂さんが申し訳なさそうにお店へ入ってきた

「雨、大丈夫でしたか？」

滴り落ちる水を庇いながら傘を預かる

松坂「思いの外降られて」(笑)

濡れた手に前髪を指先によける彼は何処かそれも楽しむような笑顔に笑った

「ですよね」(笑)

傘を傘立てに入れると

「今タオルお持ちしますね」

用意していたタオルを取りに店奥へ

松坂「すみません」

渡したタオルを肩にかけるようにしていた松坂さん

「よかったら紅茶、身体あたためてください」

応接用のテーブルにジンジャーと蜂蜜を少しだけ落とした紅茶をおく

松坂「ありがとうございます」

柔らかな笑顔は私より年下の彼を大人にみせるのに

熱さにフーッ息を吐いて唇を尖らせる松坂さんは小さな男の子で

何だか母性と安心感を同時に感じさせる不思議な人だ

松坂さんが紅茶を飲んでいる間にクロークから直したジャケットを持ってくる

「こちら、お預かりしていたジャケットになります」

カバーから出したソレを松坂さんはティーカップをテーブルに置くと直ぐに手にした

松坂「今着てみても？」

「勿論です」

松坂「すごいな…直してもらうと今まで合ってないものを着てたんだなって、気づきますね」

松坂さんの喜ぶ顔にサイズに違和感のないジャケット

よかったって色々な意味に思う瞬間だ

松坂「ありがとう」

「いえ」

オーダー表を用意するとテーブルへ

「今回のスーツはどう言ったものになさいますか」

松坂「そうだな…」

スーツが好きな人、着る目的が決まってる人以外はなかなかこういうものっていうのは難しいのかもしれない

「イメージとかでも大丈夫ですよ」

デザインのカタログを持ってこようと席を立つと

松坂「抽象的なお願いしてもいいですか？」

松坂さんは上目遣いに言った

「はい」

松坂「大野さんが俺に似合うと思うスーツでお願いします」

「え？」

松坂「駄目ですか？」

「あっ、いえ、駄目とかではなくて、私のイメージでってことですよね？」

それは前回私が仕立てたスーツへの信頼の意味なんだろうけど

松坂「はい」

「私なんかでいいんですか？」

当たり前にそんなオーダーを私がうけてもいいのか

松坂「大野さん…」

でも

それが別の意味に聞こえたのは

松坂「Aさんがいいんです」

松坂さんが初めて私を名前に呼んだから