彼のスーツを脱がす時 2 【NINO】 (ページ2)

今日:22 hit、昨日:10 hit、合計:862,273 hit

32.受難の時ページ2

今年一番の寒さだと今朝見た天気予報で聞いた午後

ストーブの温もりに身を屈めながら二宮さんのスーツに針を通していた

入口のドアの上につけているベルが澄んだ音を鳴らし来客を知らせた

「いらっしゃいませ」

急いで針をしまいトルソーを端に寄せるとお店の入口へ

須永「こんにちは」

今日も彼女は息をのむほど綺麗だった

タイトなベージュのジャケットにペールピンクの膝丈のスカート

足元は靴のクイーンと呼ばれる老舗ブランドのヒール

髪は緩くまいた髪をシンプルなクリップでまとめている

「こんにちは」

自分の見た目に恥じたことはないけど

誇りに思っていた制服と

頑張ってきた命とも言える飾り付けのない手を初めて隠したいと思ってしまった

須永「今、お忙しいですか？」

「いえ」

須永「大野さん、甘いものはお好きですか？」

真っ白な手は指先まで手入れされていて

「はい」

出された物よりも彼女の綺麗な手に目がいってしまう

須永「よかったら」

「え？」

紙袋から出された箱には毎朝オープン前に並ばないと買えないと有名な洋菓子店の名前が入っていた

須永「お礼です」

「お礼…ですか？」

彼女にお礼を言われる事なんて…

自分のしてしまった過ちに胸がざわめく

それとは正反対に何処か照れたような微笑みに

須永「ネクタイ」

彼女はそう一言告げて

その笑顔に

予期していた事が現実になったんだと直感的に思った

須永「すごく喜んでもらえたんです」

聞きたくない

今すぐここから消えてしまいたい

握りしめたズボンにシワが刻まれていく

「…それはよかったです」

私は今ちゃんと笑えてるだろうか

須永「大野さんに見立てていただいたおかげです」

目の前で綺麗に笑う彼女のように笑えてるだろうか

「いえ、それが仕事なんでお礼なんていただけませんよ」

須永「実は初めて受け取ってもらえたんです」

「え？」

須永「いつも差し入れとかをしても彼だけにってすると受け取ってもらえなくて」

プレゼントは受け取ってもらえないのか…

オーナーにあずかってもらったネクタイがふと頭に過る

どっちにしろ受け取ってもらえなかったんだって思ったら少しだけ気持ちは楽になったけど

須永「人に貰うのが苦手だっていつもかわされちゃうんですけど、今回は受け取ってもらえて…だからそのお礼です」

でもそんな彼が彼女から"ネクタイ"を受け取ったということがどういうことなのか

「ありがとうございます」

考えなくてもわかる