第39話 ページ40
外は真夏の夜で蒸し暑いはずなのに、私の体は体温がどんどん抜け落ちるようだった。
「どっちが大事なんて、そんなの決めらんないよ…どっちも私にとって大切なんだから…。」
口から出た声が酷く細く震えていたことに自分でも驚く。
真子くんが一体何を私に求めているのか分からない。
ただ真子くんの私の為ならば他の人の命がどうであろうと構わないというような発言が私の体温を奪っているのは確かだった。
真子くんは大きなため息をついた後、私の手首を握る力を強めた。
「せやったなぁ忘れとったわ、お前はそういう博愛主義者やったもんなぁ。」
あまりの強さに眉間に皺が寄る。
忘れていた?博愛主義?なんの事だかさっぱり分からない。
こんな会話を真子くんとしたのは初めてなのに、まるで前もやったような口振りだ。
「折角時間かけてお前に近づいて、今度こそお前の“特別”になれたと思ったんやけどなぁ……やっぱし、お前に“特別”なんてあらへんかったんやなぁ。」
私は怖くなって思いっきり真子くんの腕を振りほどいた。
指先が震える。
私の知らない真子くんがいる。
初めて真子くんを怖いと思った。
真子くんがゆらゆらともう一度私に向かって手を伸ばす。
この前までは安心できたその細く長い大きな手が、今は堪らなく怖い。
「ねぇ、真子くん…それは誰に向かって言っているの?」
伸びていたはずの真子くんの手がピタッと止まる。
「私を通して誰を見てるの!!」
涙で視界が揺れる。
私は怖い。
「私はその人じゃないよ!!」
私を通して誰かを見ている“君”が、私“自身”を見てくれない事が、酷く悲しく怖い。
「真子くんが大切なのは“私”じゃなくて“その人に似てる私”なんだ!」
今まで心のどこかで思っていたことを彼にぶつける。
溢れだしたら最後、恐怖は“怒り”“悲しみ”“嫉妬”で覆い尽くされる。
「私はその人とは違う…絶対君のところに帰ってくるよ。」
「そないな言葉信じられると思ぉとんのか!!」
今度は真子くんが私に感情をぶつける。
暗くて見えなかったはずの彼の顔がは今は月明かりに照らされよく見えた。
暗闇によって隠されていたその表情は、普段では想像のつかないほど酷く脆く、重たく暗い何かを孕んでいた。
「隠してきたんや今まで!!誰の目にも触れさせんでずっと大事に隠しとったんや!!」
悲痛な程の叫びにも近い声に私は背を向ける。
「待ってて、ちゃんと君の所に帰ってくるよ。」
そう言って私は舜歩でその場を去った。
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マニ。(プロフ) - ✉️。こんにちは!いつも作品見ています。嫌じゃなければ一緒にボードで会話しませんか?これからも更新応援してます💖 (1月22日 19時) (レス) id: c4b8377817 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ななな | 作成日時:2023年11月28日 20時