僕らの存在証明論 (ページ26)

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第25話ページ26

「その恐怖(きもち)を持っているからこそ、貴女は“人間”なんでしょうね。」

浦原さんのその言葉に私はゆっくり顔を上げる。

「どう言う意味､ですか…？」

「そのままの意味っすよ」と浦原さんは先程とは打って変わってあっけらかんと言う。

「まぁその夢が言っていた通り､いくら貴女が拒んでも虚が見えてしまったらこれからは襲われるし、貴女自身の命を護るためには今日のように刀を振るわなくてはいけない。」

＿＿思い出したらもう戻れなくなる＿＿

見えてしまったものはもう、見えなかった時には戻れない。

あの言葉が嫌に鮮明に蘇った。

「だからアタシ等が教えられるのは貴女が思い出した“化け物の斬り方”の制御の仕方です。」

「制御の仕方？」

どういう事と問う前に浦原さんは人差し指を私の顔の前に持ってきてトンｯと軽く私の額を突いた。

「簡単に言うと“無意識”を“意識”に変える訓練っすかね」

ますます意味がわからなくなった私は首を捻る。

その様子を浦原さんは扇子で扇ぎながらケラケラと笑って見ていた。

「貴女が思い出したのは全体の１％にもきっと満たないほど微量なものだと思います。」

それを聞いてギョッと浦原さんを見る。

これで全体の１％にも満たないのなら全てを思い出してしまった時、今の私の人格はあるものなのだろうか。

不安で思考が沈んで行きそうな所を「話は最後まで聞いてください。」と扇子で頭を叩かれる。

「貴女の知らない人格が無意識に刃を向けるのなら貴女が意識的にそれを抑え込めばいい。無意識に動けるほど身体に染み付いたものを、今度は貴女が意識して使えるようになればいい。」

本当は逆なんですけどねぇと浦原さんはケラケラと笑う。

「貴女も貴女で今までで培ってきたものがあるでしょう？」

無意識下の中でそれが出るのなら、貴女の人格は少なからず残っているという事です。

そう言われ私は逆刃刀を見る。

あの時無意識に出たのはうちの流派だった。

「これから先何を思い出したとしても、貴女が意識的に動き、斬りたいものとそうでないものの区別をつけ制御する。それがアタシが考えた貴女の存在証明論です。」

「私の、存在証明論……。」

私は逆刃刀を握り締める。

人を斬らないというのがうちの家系の絶対ルール。

斬りたいものとそうでないものの区別がつけば今日の様な恐怖(気持ち)は無くなるはずだ。

「どうします？」

そう問いかける彼に､お願いしますと勢いよく頭を下げた。