第23話 ページ24
私は浦原喜助と名乗る男に連れられ“浦原商店”と書かれた小さな駄菓子屋に来ていた。
「それじゃぁ改めまして、アタシの名前は浦原喜助。この浦原商店の店主です。貴女の名前を伺ってもいいっすか?」
「緋村…Aです……。」
「そう、緋村さんっすか…」
浦原さんは何故か私の苗字を噛み締めるように呟いた。
目元まで深く帽子を被っているせいで、表情から何を考えているのか読み取れない。
私は先程、鉄斎と名乗った厳ついサングラスとエプロンを掛けたどこかアンバランスなおじ様が持ってきてくれたお茶を飲む。
「色々と説明しなきゃいけないんすけど、その前に…何故自害しようとしていたか教えて頂けますか?」
その言葉にビクンっと体が跳ねた。
さっきまでとは比べ物にならないくらい真剣な声。
私は恐る恐る視線を上げて彼の顔を見る。
暗く影になっていたはずの目元は、今は鋭い光を放っているように見えた。
言い逃れはできない事を察し、私は重い口を開く。
「…怖くなったんです。」
「怖い?」
私は小さく頷き、視線を落とす。
「私は今日始めて生き物を斬りました。私の家に代々受け継がれてきた刀と、その流派で……。」
取り留めのない恐怖がまた地の底から這い上がってくる。
「生き物を殺したと思っているんすか?」
「あれは生き物じゃないんですか?」
そう問いかけると彼は違うと否定する。
「あれは死者の成れの果てです。」
その言葉に首を傾げる私に浦原さんは続けて説明をしてくれる。
「こちらの事を私達は“現世”と呼んでいます。現世で死んだ者は霊となり死神というもの達が魂葬というものをする事で尸魂界、こちらで言う“あの世”に送られます。」
浦原さんは、私が今まで知る事すら出来なかったこの世界の実態を淡々と語る。
「ですが、魂葬が間に合わず長い間現世へ留まり続けてしまった霊は次第に胸に孔が空き悪霊となって生きた人間を襲い始める。それが貴女が先程襲われた虚です。」
あまりにも現実からかけ離れていて一つの御伽噺を聞いているようだった。
けれど先程の記憶と手に残る感覚はそれを現実だと強く主張する。
「貴女が生き物を殺してしまった事に心を痛めているなら、それは気にしなくていい。いずれは斬らなくてはならない悪霊。貴女が斬らなければ、他の誰かに危害が及んでいた。」
そう言う彼に私は小さく首を振る。
「そうじゃないんです……。」
110人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
マニ。(プロフ) - ✉️。こんにちは!いつも作品見ています。嫌じゃなければ一緒にボードで会話しませんか?これからも更新応援してます💖 (1月22日 19時) (レス) id: c4b8377817 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ななな | 作成日時:2023年11月28日 20時