第22話 ページ23
刀を取られ、声をかけられたことでハッと我に返る。
私は今何をしようとしていた?
噎せ返るような恐怖から逃れたくて咄嗟に自分の首に刃を当てて……
無意識にしようとしていたことを理解し戦慄する。
あと少し刀を取られるのが遅かったら?
そう思うと手が震え言うことを聞かなくなる。
無意識に体が動きどれが私の本当の意思なのか分からなくなる。
ぶわっと嫌な汗が全身から吹き出る。
今恐怖を感じ、思考している私は本当に存在しているの?
肺が上手く酸素を取り込めないで、吸えているのか吸えていないのか分からない浅い呼吸を繰り返す。
苦しくて次第に視界が揺らいでいく。
「あ〜こりゃダメだ、気が動転しちゃってるっすね。」
声の主は胸を抑え蹲る私の隣にしゃがみこみ、私の背中を優しく摩る。
そして私の片手を自分の胸へと持っていく。
「アタシの呼吸に合わせてしっかり息を吐いてください。」
手のひらから伝わる温かな体温と緩やかな上下する胸の動き。
何処かそれに安堵してゆっくりその胸の動きに合わせるように息を整える。
「そう上手っすね、そのままゆっくり、ゆっくり。」
呼吸が落ち着いてきた頃、私はやっと声の主の姿を見る事が出来る。
「いやぁ〜ほんと何もかも想定外で驚きっぱなしっす」
言葉とは裏腹に微塵も驚いていないような声色で話す男は、縞模様の帽子を深くまでかぶり、甚平に羽織に下駄という特徴的な格好をしていた。
「……貴方は誰?」
私がそう問うと下駄帽子は少し動きを止めたが、すぐに元に戻り「これはこれは失礼しました」とケラケラと笑いながら言う。
「アタシはしがない駄菓子屋の店主でしてねぇ。虚の気配がして来てみたら貴女が倒れていたってわけっすよ。」
「ほ、ろう?」
聞き覚えの無い単語に私が問い直すと、「あ〜なるほど」と下駄帽子は呟く。
「虚と言うのは先程貴女がその刀で斬った化け物のことっす。」
「あれはなんなの…?」
「こんなところで話すには少し長くなりますからねぇ……」
そう言って下駄帽子は立ち上がる。
「少し一緒に来て貰えますか?」
一応駄菓子屋なんでお茶菓子くらいは出しますよ?
「貴方は何者なの?」
「いやだなぁ言ったでしょう“しがない駄菓子屋の店主”だと」
下駄帽子は胡散臭い笑顔を隠しもせずヘラヘラと笑う。
「まぁ一応自己紹介しておきますか…アタシの名前は浦原喜助。浦原商店の店長をしてます。」
以後お見知り置きを。
110人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
マニ。(プロフ) - ✉️。こんにちは!いつも作品見ています。嫌じゃなければ一緒にボードで会話しませんか?これからも更新応援してます💖 (1月22日 19時) (レス) id: c4b8377817 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ななな | 作成日時:2023年11月28日 20時