第15話 ページ16
「コラ、もうすぐ時間やで。準備せなあかんちゃう?」
頭を小さく小突かれて、私の世界は唐突に終わりを告げる。
「真子くん…」
「ほらもう刀しまぃ。」
うんと小さく返事をして、美しい刀身を鞘の中へとしまう。
そしてまた神棚の前に戻し、深々と頭を下げる。
「刀、やっぱ握んなきゃあかん?」
「うん、ごめんね。」
「そぉか」と小さく言ってはよ準備しぃと残し、道場を出ていく。
真子くんは私が刀を握る事を昔から良く思わない。
最初の頃はどうにか他のものに興味を移させようと必死だったのを覚えている。
けれどその時にはもう私にとって刀は大きな存在で取り除くのは困難だった。
昔は真子くんが泊まりに来ても気にせず朝の素振りをしていたが、真子くんが余りにも辛そうな顔をするから止めた。
だから真子くんが来る日はこうして逆刃刀の手入れをする事にしている。
真子くんがそんな辛そうな顔をするのは、きっと真子くんの忘れられない人も刀を握る人だったのだと思う。
それでその刀を握った故に死んだのだ。
じゃなかったらあんな顔はしない。
真子くんにあんな顔をさせたいわけじゃない。
でも私はこの刀を捨てる事ができない。
真子くんの秘密が気にならない訳がない。
出来れば教えて欲しい。
真子くんが何者で、どこで何をしているのか、過去に何があったのか、誰と私を重ねているのか___
けれどそれを聞く事は真子くんの心の傷を抉り、私達の今の関係に亀裂を入れる行為だ。
それだけはしたくない。
私の世界は刀と一護と真子くんでできている。
とても小さな世界だ。
だから刀と2人がいれば私は生きていける。
けれど裏を返せばそのどれかが欠ければ私は生きていけない。
特別なもので固められた世界でどれか一つ欠ければ穴が空く。
その空いた穴から広がる果てしない先の見えない世界にきっと恐怖し、身震いするだろう。
そして自分の世界だったはずの場所で一人蹲って動けなくなるんだ。
それが私は酷く怖い。
じいちゃんという大きな存在がいなくなった今。
見えている別世界の穴を必死に一護と真子くんで塞ぎ、私を護ろうとしてくれている。
でもそれは何も聞かないし、何も気づかない馬鹿な私だから。
きっと私が彼らに彼らの秘密を問いただした途端、私の世界は一気に崩れ落ちる。
そんな予感がしている。
110人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
マニ。(プロフ) - ✉️。こんにちは!いつも作品見ています。嫌じゃなければ一緒にボードで会話しませんか?これからも更新応援してます💖 (1月22日 19時) (レス) id: c4b8377817 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ななな | 作成日時:2023年11月28日 20時