僕らの存在証明論 (ページ15)

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第14話ページ15

朝、また同じ時間に目が覚める。

真子くんのおまじないが聞いたのか分からないが、今日はあの夢を見なかった。

布団から起き上がりグッと身体を伸ばす。

そして部屋から出て洗面台で顔を洗う。

まだ覚醒しきっていない頭に、水道の冷えた水は酷く心地よかった。

今日は道着ではなく学校ジャージに着替えて道場へと向かう。

春はもう終わるようで、肌寒くなくなった朝が初夏の匂いを感じさせる。

私は道場の扉をそっと開け一礼をしてから中に入る。

世の中がまだ目覚めていないこの時間は、世界は私の中だけで完結されていると錯覚させる。

この透き通るような感覚が私はたまらなく好きだ。

私は足を進めて神棚の前に祀られている一振の刀を手に取る。

細心の注意をはらいながら私はその刃を漆黒の鞘から取り出す。

そこから出てきた美しい刀身を見て毎度ながら私は見惚れるように息を吐く。

十分に見惚れたあと、私はじいちゃんから教わった手順でその刀を磨き始める。

この刀は私が剣術の世界にのめり込むきっかけとなった刀だが、普通の刀とは形が異なっている。

鞘に入れたままの状態を見れば一見普通の刀だが、その刀身を見ると通常の刀とは刃と峰が逆に打たれている。

名を『逆刃刀真打』という。

元はご先祖さまが人斬りを辞める時に、剣を捨てる事で人斬りであったことを忘れるなという戒めが込められて授けられた一振らしい。

茎にはその刀鍛冶の平和を願う辞世の句が書かれているらしい。

この刀は殺人剣を作り続けてきた刀鍛冶の最上の出来らしく、明治初期から156年たった今でも、その美しさは色褪せることなく、その刃の鋭さは朽ちることは無かった。

ご先祖さまの想いも、刀鍛冶の想いも、そしてこれを今日まで代々受け継いできた先人たちの想いも、

全てこの一振の刃の中に詰まっている。

そしてそれを今度は私が握り、後世へと受け継ぐ。

そう思うと、私はこの世界に生きていると強く実感出来る。

朝日が窓から差し込み道場全体を照らすことができるぐらいに太陽が高く昇る時間帯になった。

眩しいくらいの朝焼けに私は試しに刀身をその光に当ててみる。

するとそれは神々しく、さも当然のように光の衣を身にまとった。

あぁ本当になんて美しいんだろう。

この刀はけして私に温もりを与えてくれる訳では無いし、寂しさを埋めてくれる訳でもない。

けれどこの美しさが私に生きる活力を与えてくれるのは確かだ。