僕らの存在証明論 (ページ12)

今日:67 hit、昨日:39 hit、合計:14,139 hit

第11話ページ12

「せや、A、今日蜜柑とわらび餅買ってきてん。食後のデザートで食べよな。」

「え！本当！？蜜柑時期じゃないのに！？」

「せやから小さくても勘弁してなぁ。」

「真子くん大好き!!」

そう言って私は真子くんの首に勢いよく抱き着く。

そんな私を彼は毎度ながらよろめきもせず受け止める。

「お前ほんま現金なやっちゃなぁ」

「どうせ私の機嫌取りで買ってきたんでしょ？直してあげるんだからそんなこと言わない方がいいよ。」

「へーへー」

そんな適当な返事をしているが真子くんの顔はそれとは裏腹にひどく慈しみに満ちた顔をしている。

＿＿まただ＿＿

その顔に満ちる慈愛の心は一体誰に向けて居るものなのだろうか。

真子くんには一護以上に沢山の秘密がある。

私は真子くんが普段何処で何をしているのか全く知らない。

ただ私が長年真子くんと一緒にいて分かったことは二つ。

一つは、多分真子くんは人ではない。

これが理解出来たのは中学校に上がる頃。

初めて会った時から一切変わらないその姿。

なのに自分とじいちゃんは成長し、年老いていく。

一護の例もあるし、そういう類の何かなのだと思う。

もう一つは真子くんは私を通して私じゃない“誰か”を見ているという事。

そしてその相手にただならぬ“後悔の念”を抱いていること。

真子くんと初めて会った日を今でも鮮明に思い出せる。

音さえも覆い隠すほど雪が降る酷く寒い日の夜だった。

私はその頃にはもう剣術の世界に酷く魅入られていて、一人雪の降る中、道場に祀られている刀を見に行こうとしていた時だった。

不意に庭の塀の向こうに何かの気配を感じた。

普段ならそこに気配があっても素通りする。

そんな気配に気を割くよりその時間に刀を眺めた方が有意義に思えたからだ。

だが何故かその日はたまたま、本当にただの気まぐれでその気配に導かれるようにそこへ足が向いた。

雲は空を厚く多い、星明かりさえ陰る暗い夜の闇。

懐中電灯なんてどこにあるか知らないから、先日ただの好奇心で買ったガチャガチャの小さなライトの光を頼りに庭の中を進む。

自分の足音だけがやけにうるさく聞こえた。

地面さえ見えなくなる程の大雪で明日の朝は雪掻きだなと小さく落胆する。

門柱の向こう、暗く閉ざされたような世界に私は躊躇なく足を踏み入れる。

深々と雪が降り積る暗闇の中、そこに倒れているその金だけがやけに光って見えた。