バカみたい ページ8
あの日から、彼と内緒の関係がはじまった。
会う度に、彼の腕に抱かれる度に、どんどんと抜け出せなくなっている自分がいて。
彼女じゃないくせに、ちょっと彼の甘い言葉に期待なんかしちゃって。
それでも結局何も言ってくれない彼は、ただ黙って煙草をふかして、曖昧に笑うばかり。
彼の影響で吸うようになった煙草も、彼の影響で覚えたあのフレーズも、
「黎くん、すきだよ」
「…Aちゃんは可愛いね」
可愛いねって言葉ではぐらかし続ける彼との関係も、１年くらいが経とうとしていた頃だった。
「和田、今日は来れなくて残念だね。とりあえず打ち上げいこー」
「奏、そっちのほうが本命なんでしょ？」
バレた？なんて笑った奏。
黎くんたちの打ち上げに毎回当たり前のように参加するようになった私達は、その日もいつものようにライブ終わりの裏口に向かって、
「先輩、っやっぱり、好きです」
裏口にむかう角を曲がれば聞こえてきたそんな声と、ギターケースを背負った小さな背中。
ボブヘアを揺らして涙を流す女の子に覆いかぶさったのは黎くんの姿で。
わたしには向けたことの無いような顔で、女の子へとキスを繰り返す黎くん、
好きだ、って全身から溢れ出るまま止まらないのか、わたしなんかには気付きもせず、ただ夢中で目の前の子に触れて、
昨日わたしに触れていた手が、愛おしそうにボブヘアの後頭部を緩く包むから、
息が出来ない、くるしい
「うわ、なんか見ちゃいけないもん見ちゃった感じ。な？………A？」
「っ、だか、ら」
黎くん、なんて呼んじゃってばかみたい。
舞い上がって、ばかみたい。
だから、あの子がいたから、はぐらかされ続けてたんだね。
照れてるのかな、なんてちょっと期待してた自分をぐちゃぐちゃにしてゴミ箱に放り投げたい。
ああ、おわった、無理だ。
「A？どした？」
ぐちゃぐちゃでグズグズでボロボロで、ズタズタだ。
息の仕方がわからなくなりそうで、苦しくて、あーあしんどい。涙しか出てこない。
裏口が見えなくなる所までふらふらと引き返したそこ、
ガクン、力が抜けた身体が地面にぶつかって、慌てて追いかけて来た奏の腕が身体を支える
今日だけ、今日だけで、いいから。
たくさんいるうちのひとりにしてよ。なんて。
今はその胸に縋り付いていないと、このままほんとに息が出来なくなってしまうような感覚に取り憑かれて、
しがみついた奏に、無理やり合わせた唇。
たすけて、たすけてよ、奏。
彼が残ってるこの身体のままでは、きっとわたしは今すぐここで死んでしまう。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 527人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぴぴ - 1番好きなお話です、完結待っています (2023年2月9日 23時) (
レス) id: d9098e31de (このIDを非表示/違反報告)
なな - とても面白いので完結させていただきたいです (2022年6月15日 21時) (レス) @page39 id: 15d12ffd06 (このIDを非表示/違反報告)
アオ(プロフ) - 0さん» 飛んできていただけたなんて(; ;)まだ更新を待ってくださっている読者様がいると思うととても心強いです！！ありがとうございます(; ;)最後まで頑張りますのでどうぞお付き合い下さると嬉しいです！！ (2021年11月4日 23時) (レス) id: eaedf0312e (このIDを非表示/違反報告)
アオ(プロフ) - ゆゆさん» だいぶ登場人物が増えました…。作者も完全に終わりを見失っておりますが、まだ読んでくださっているようでしたらどうぞ最後までお付き合い下さると幸いです(; ;) (2021年11月4日 23時) (レス) id: eaedf0312e (このIDを非表示/違反報告)
アオ(プロフ) - 華子さん» だいぶ前のコメントに今更お返事ですみません。嬉しいお言葉ありがとうございます(; ;)まだ読んでくださっているようでしたら最後まで頑張りますのでどうか暖かく見守っていただければと思います！ (2021年11月4日 23時) (レス) id: eaedf0312e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：アオ
| 作成日時：2020年11月18日 16時
