適任 ページ5
しばらく涙が止まらなかった。
「大丈夫かな？笑」
「はい。すみません。」
「ママに君の話しを聞いたけど、君の背負って来たもの、本当に大変な事だったね。何もそこまでとは思ったけど。これから、また重荷を背負わせる事になるけど…」
「いえ。社長さんには助けて頂くんですから。精一杯頑張らせて頂きます。」
「本当に君は…。ママが言う通りだね。はいこれ。私の名刺。振込先は後でここにメールしておいてね？」
「ありがとうございます。」
差し出された名刺を受け取った。
暗くて字がよく分かんない。
バッグにそっとしまった。
「あと、確認なんだけどいいかな？」
「はい。」
「この仕事の事は、全てどんな事があっても、他言厳禁だよ？あと今から会うことになる彼を君に夢中にさせて欲しい。ただし、君は本気になってはダメだよ？」
他言厳禁、それは当然。
私が本気になってはいけない。それも分かる。
ただ、誰だか知らないけど、私に夢中にさせなきゃいけないの？
それは無理があるんじゃないかな…
こんなあてがわれた女に夢中になる訳がない…
「アハハハ。大丈夫だよ。君は魅力的だから。君を彼のそばに置くのは、他に彼女を作られると面倒だからなんだよ。大事な時期だからね。だから、君にある程度夢中になってもらわないと。」
そういうことなんだよね。
「あの、私からも1ついいですか？」
これは、さっきからずっと思っていること。
「なんだい？」
「これから、会うことになるその彼が、私を見て、私じゃ嫌だと言う可能性もあると思うんです。その場合は…」
「大丈夫だよ。私の言うことは絶対だからね。笑」
絶対だからね…
絶対服従だからね…
そう聞こえた気がした。
こういう世界で、生きている人なんだな。
自分を押し殺して、抑え込まれて生きている。
まるで、私のよう…。
まだ見ぬ彼だけど、仲間が増えた気がした。
「…そうですか。分かりました。」
「君は、その彼がどんな人なのかは聞かないんだね？」
「…そうですね。聞いたところで、何も変わりませんから…」
こんな冷めてしまった私がその彼を癒してあげれるのだろうか…
「アハハハ！ますます気に入った。君はこの仕事に適任だって確信に変わったよ。」
こんな仕事に適任と思われるなんて、
やっぱり私は、普通の、人としての大切な何かを失ってしまってるんだろうな…
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1445人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ひろみ
| 作成日時：2018年11月18日 22時
