兎の悟り ページ1
｢はぁ･･･｣
｢どうしたの･･･宇佐美さん？｣
｢いえ、なんでもありませんよ。｣
そういって宇佐美は、隣を歩いていたAの心配を他所に黙り込んだ。その原因はもちろん、先日、鶴見と話した門倉の件についてである。
Aが鶴見らのところへ来て１週間。いよいよ準備も大詰め。そろそろ本格的に網走監獄へ突撃するか、というときのことだった。
Aも含めた第7師団は、根室より更に網走監獄に近い町へ移動していた。そこを休憩がてら、Aと宇佐美はのんびりと歩いていたのだった────自然と恋人繋ぎをしながら。
(鶴見中尉殿は、どうしてあんな意味深な発言をされたのだろう。あのような選択肢を与え、僕に門倉部長をどうしろと･･･あ。)
そこで宇佐美は、ふとあることを思い出す。
｢そうえば、Aさんって網走監獄への襲撃の際は、一緒に行くんですよね？｣
｢うん、そうだけど･･･｣
Aは元看守。監獄内部については誰よりも知っているので、同行するのは必然だった。
｢じゃあ、門倉部長と必然的に再会することになりますね！｣
｢か、門倉部長･･･そ、そうね･･･｣
そこでAは、忘れようとしていた深い喪失感を再び抱いた。ここに来てからかなり時間は経った。それでも、門倉に一言もいわずに別れたのをAはずっと後悔していた。ここで、第7師団のために戦うと決意したとしても、だ。
｢やっぱり、Aさんの信頼を裏切ったとはいえ、門倉部長とは敵対したくないですか？｣
｢うん･･･宇佐美さんは怒るかもしれないけど、敵対しても、出来れば門倉部長には生き残って欲しい･･･どんなに裏切られても、門倉部長は私のお父さん･･･のような存在には変わらないから。｣
そう切なげにいうAに宇佐美は、Aを守りたい、傷つけたくない、という思いがふつふつと湧いてきた。以前の宇佐美なら、Aをどん底まで絶望させ狂わせて、自分しか愛せないようにすることしか考えなかったはずなのにだ。そこで宇佐美は、今まで素直になれずにいたもの全てを受け入れることにした。そして、憧れの上官の意図を全てを悟った。
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作者名：もふもふ | 作成日時：2019年1月5日 17時
