山猫に一目惚れ其ノ肆 (ページ3)

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正体ページ3

｢でも、なんでそこまで尾形百之助にこだわるんだ鶴見少尉？｣

｢いくら、射撃の腕が良いからって･･･｣

｢だからこそですよ。私は──────────｣

そういって鶴見は間を置いた。そんな鶴見を見やった2人は、ただ驚いた。困惑した。なぜなら──────────

｢戦友を荒れた冷たい石の下で永遠に眠らせるようなことはしたくありませんから──────────｣

常は何を考えているのか分からない鶴見がいつになく、目尻を下げて哀愁を漂わせていたのだから。

その後鶴見はふと、どこからともなく1枚の書類を取り出した。それを2人はなんだと思い、その紙に書かれている内容を覗き込んだ。その瞬間2人は、鶴見の意図を全て悟った。尾形の殺人の罪をもみ消す、狂気的な企みをする理由も全て理解し納得した。

｢これには、尾形百之助が必要不可欠となりますが･･･あなた方は、こちらに賛成いただけますでしょうか？｣

｢もちろんだ。｣

｢他の連隊長や花沢師団長が認めなくとも、私はそれを許可する。まあ、結局彼らの承諾がないと無意味だが。｣

｢いえ、今はあなた方だけでも、こちらに賛成していただける意思があるということを確認できただけで十分です。｣

｢ならば良いが･･･本当にこれを実行するなら、なんとしても他の第7師団の連隊長と花沢師団長の承諾が必須だ。｣

｢そんなこと、できるはずがないのでは鶴見少尉？｣

｢確かに我々には到底できない。だが、花沢中将殿の落胤という異分子である尾形百之助ならできるのではありませんかね？彼が殺害したであろう、亡き母との歪んだ繋がりを断ち切り本当の意味で巣立つ。そして、その目に光を宿すこととなれば･･･全ては上手くいく。私には･･･いや、この軍には尾形百之助が必要だ。｣

そういって鶴見は窓から、かつて愛した亡き妻子の眠る白銀の大陸のある方向を見つめた。

｢今の日ノ本は、いつ外国(そとぐに)と戦争が起きてもおかしくない状態にある。我々は何としてでも、この北の果てを守らねばならない。何としてでも、『本当の勝利』を収めねばならない──────────大国に飲み込まれるわけにはいかないのだ。｣

そういって鶴見は、件の書類を見やった。そこには、｢遠距離狙撃部隊編成についての嘆願｣と書かれていた。

死神の正体それは───部下思い･･･いや、軍を、この第7師団を誰よりも実直に思いやる、ひとりの純粋な軍人･･･ただのそれだけだった。