兎の懐 ページ23
｢か、門倉部長は土方さんに関して、第7師団に何もいわなかったの？｣
｢ええ。何も。上官によれば、看守部長からは、刺青の囚人の中に老いぼれの爺さんがいるとしか聞いていなかったそうです。それが、後の土方歳三だったのですがね。｣
｢そ、そんな･･･でも、それは、門倉部長が、土方さんは刺青の囚人だと第7師団は把握していると思っていわなかっただけかも･･･！｣
Aは、必死に門倉へ対する不信感を認めなかった。今まで宇佐美がいったのは可能性でしかないのだ。列記とした証拠はない。そもそも、宇佐美が嘘をついているかもしれない。Aは、僅かな希望にとことんすがった。
｢まだ認めないんですか？門倉部長は第7師団に隠していたんですよ？移送中に土方を強く警戒されないようにね。新撰組鬼の副長が囚人に混じっていると思われないように。それは、土方の内通者だからやることでしょう？そして、その際にAさんがいたら、必ず土方のことを第7師団にバラされる。だから、脱獄事件前後に、門倉部長はあなたに無理矢理長期休暇を与えたんですよ。あなたは────邪魔だから。｣
｢じゃ、邪魔･･･？｣
その宇佐美の言葉にAは、どろりとした不快な感情が胸中をしめた。
｢そうですよ！門倉部長にとって、あなたは娘でもなんでもない。邪魔でしかないんですよ･･･じゃーま♪あはは。｣
｢ち、違う･･･！そんなわけない･･･！門倉部長は、本当に娘のように私を思ってくれて･･･だ、だいたい、門倉部長が本当に土方さんの内通者だったら私にいうはず･･･！だって、何でもいってくれるって･･･娘のように思ってるからって･･･！｣
｢へぇ。何でもねぇ･･･じゃあ、門倉部長について、これくらいは知ってますよね？｣
そういって宇佐美は、昨日先輩看守から買った｢旧幕府軍の生き様｣という本を懐から取り出す。
｢旧幕府軍･･･？それが、門倉部長となんの関係が･･･？｣
｢ふふ。このページを見てください♪｣
そういって宇佐美は、本のあるページを開いてAに見えるように差し出す。そして、その一部分を指でさす。その瞬間、Aの目が大きく見開く。
｢な、なにこれ･･･！うそ、なんで門倉部長が･･･！｣
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作者名：もふもふ | 作成日時：2018年12月4日 12時
