兎の本性 ページ17
｢はぁ･･･うーん･･･｣
宇佐美が網走監獄に来てから2日目の朝。Aはモヤモヤした気持ちを抱えて、外の警備についていた。最近、のっぺら坊を狙う輩が増えたとのことで、Aもたまに応援で、看守から警備に回っていたのである。
｢宇佐美さん･･･｣
そう、モヤモヤの原因はまさにその人だった。昨日の夕方、宇佐美に挨拶と同時に頬に口付けされたAは、暫くその場で固まり酷く動揺した。
｢どうしてあんなこと･･･それにあの時いってた鎖って･･･ああもう仕事に集中できない･･･！｣
Aは一晩明けた後もモヤモヤした気持ちを解消することが出来なかった。それどころか、ますます疑問が増えるばかりだ。
｢宇佐美さんのことが頭から離れない･･･彼のことを考えると胸が締め付けられる･･･好きなのかな･･･？｣
Aはこれが恋なのか、今一つ実感が湧かなかった。
｢はぁ･･･私、どうしたらい───ってあれは、門倉部長?!｣
同じところを見るのも飽き、ちょっとだけと思い独り言を呟きながら横を向くと、養豚場から走り去る門倉の後ろ姿が目に入る。
｢なんであんなに慌てて───って、あれは宇佐美さんの刀?!｣
Aは、土方歳三の件がなくとも、純粋に刀が好きだった。町ですれ違う人間の刀まで、まじまじと観察するほどに。だから、門倉の手にしていた刀が、宇佐美の物だとすぐに判別出来た。
｢ど、どうして門倉部長が･･･｣
そこでAは、先程とは全く別の嫌な胸騒ぎを感じた。今、門倉が出てきた養豚場に向かえば、何かが･･･全て終わってしまうような嫌な予感である。途端にAの脳が｢行くな｣と警鐘を鳴らす。
｢で、でも･･･何かあったなら早く駆けつけないと･･･！｣
Aはその直感から来る警告を振り切り、小走りで養豚場に向かった。すると、血の臭いがAの鼻を掠めた。それは、養豚場に近づけば近づくほど濃くなり、Aは思わず顔を顰める。
｢もしかして、宇佐美さんの身に･･･！｣
Aは宇佐美のことが心配なり、生臭い血の匂いを振り切って中を覗いた。
｢あれ、Aさんですか？丁度良いところに来ましたねー！｣
そこには、血がベッドリついた金槌を持った宇佐美がAを笑顔で迎えていた。その足元には、男二人が血の池を作り息絶えていた。Aは、その光景を受け入れるまでそこから一歩も動くことが出来なかった。
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作者名：もふもふ | 作成日時：2018年12月4日 12時
