兎の問いかけ ページ18
「こ、これは一体どういうこと?!う、宇佐美さんがどうしてこんな・・・」
Aは今の状況を上手く飲み込むことが出来なかった。無理もない。Aの知る宇佐美は、今のように人を殺して笑っていられるような男ではないはずなのだから。Aにとっては、ちょっと調子が良すぎるが優しい新人で、Aが好きかもしれない男。そんな男がこのようなことをしたと、受けいれられる訳がなかった。
「Aさん・・・」
そういって宇佐美が、その歪んだ笑みに恍惚とした表情を浮かべAに近づく。
「や、やだ・・・こないで───あっ・・・!!」
Aは逃げようと後ず去ろうとするが、恐怖で足がすくんでバランスを崩す。Aは咄嗟に、その後に来るであろう衝撃に耐えようと身構える。
「───おっと・・・セーフですね!」
しかし、宇佐美に瞬時に背に腕を回され、ギュッと抱きしめられた。そのため、Aには僅かな衝撃も感じられなかったのである。
「もう、Aさんは危なっかしいんですから。まぁ、そんなところも可愛いんですけどね!」
そういって宇佐美は、Aの髪をひと房掬い優しく口付けをする。Aは、宇佐美に対する恐怖で体が思うように動かず、暫くされるがままになっていた。
「な、なんでこんなこと・・・」
「Aさん。本当に僕が悪いと思いますか?」
「え?」
Aは、唐突な質問の意味が分からず、場にそぐわない素っ頓狂な声を上げる。
「こ、殺すのは悪いに・・・」
「よく見てください。僕が殺した2人を・・・」
そういって宇佐美は、Aから離れる。すると、先程の息絶えた2人がAの視界に入る。
「あ、うそ・・・な、なんでこんなところに───!!」
それは、監獄内の房に閉じ込められているはずの囚人だった。
(さっきはよく見てなかったから分からなかったけど・・・な、なんで・・・?!脱走なんて今の厳戒態勢で出来るはずが・・・!)
そこでAは、この場所から逃げるように去っていった門倉の後ろ姿を唐突に思い出す。
「ま、まさか・・・!」
すると、ここに来る前に振り切ったはずの警鐘が、再びAの脳内に鳴り出す。「その先は考えるな」とガンガン頭を打ち付ける。しかし、考えずにはいられなかった。それは、父親のように信頼していた人を心底疑うものだった。Aの、ここでの唯一の拠り所であった彼を裏切るようなものだった。
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作者名:もふもふ | 作成日時:2018年12月4日 12時