兎の口付け ページ16
その後書類整理が終わり、先輩看守は一足先に帰った。宇佐美はふと、先程先輩看守の1人から買った、本の中身を開きペラペラ捲る。あの先輩看守が、Aにこの本を勧める度胸が無くて良かったと思いながら。女だから、恥ずかしくて声をかけられないらしい。そんなことを考えてながら眺めていると、ふとあるページで目が止まる。
｢ふふ。思った通りだ･･･これだけあれば充分だ。｣
嘘か本当かなんて些細なこと。物的証拠があれば、それだけで信憑性は高まると宇佐美は歪んだ笑みを浮かべた。あとは、上官のように巧みな話術で堕とせば良い。
｢あれ、宇佐美さんまだいたの？｣
｢あ、Aさん！｣
宇佐美はずっと頭の中で考えいた想い人に突然声をかけられ、その声がした方を向く。すぐに懐に本をしまって。
｢書類整理までさせてごめんね。初日だから、早めにあがってもらうつもりだったのに。｣
Aが書類保管庫の中に入りながら言う。
｢良いんです。僕が好きでやったことですから。｣
｢でも、助かった。ありがとう！｣
そういってAは笑顔で宇佐美に礼を言った。それを見た瞬間、その笑顔を独り占めしたい、自分だけのものにしたい、とドロドロとした感情が宇佐美の心を支配した。
｢Aさん･･･｣
｢何･･･えっ｣
急に声のトーンを落とした宇佐美にAは不思議そうに首をかしげた。すると、いつの間にか宇佐美が目と鼻の先にいて、Aは思わ声を漏らす。
｢あ、あのち、ちか･･･｣
｢Aさん。｣
宇佐美はAの耳元で甘く甘く囁く。
｢僕が鎖を解いてあげますから。｣
｢え･･･？｣
｢偽りの鎖を･･･ね。そしたら、ずっと僕のことだけを見てくださいね･･･？｣
｢あの、い、いみが･･･｣
｢そのうち分かりますよ･･･では、また明日。おやすみなさいA･･･｣
そういって宇佐美はAの頬に優しく口付けをし、静かに部屋を去っていった。
Aは、呼び捨てされたことや口付けされたことに、ただ、顔を真っ赤にして困惑するしかなかった。そのAの心臓は人生で一番ギュッと締め付けられていた。
たぬきさんたぬきさん
あなたとお嬢さんにある偽りの絆という名の鎖を
このうさぎさんが引きちぎって差し上げましょう
そしたら、お嬢さんは僕のもの
僕ならお嬢さんを心から愛しますよ
さぁ、いつ化けの皮をはがしましょうかたぬきさん
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作者名：もふもふ | 作成日時：2018年12月4日 12時
