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その1枚の紙切れは、ある写真だった
一見何の変哲もない写真だけど、これは……
「…………懐かし過ぎやろ」
そんな俺の呟きが部屋に響く
その写真は、Aと俺が初めて出会った時の……幼少期の時の写真だ
少し目が潤んでいる俺に、服が泥まみれになっているにも関わらず満面の笑みのA
普通逆なんちゃうの、と思いながらその写真を見つめる
あぁ、そういえば、“約束”をしたのもこの時だったっけ
『私、ずーっと坂田くんのこと好きでいるよ!』
『ほんま……?』
『うん、本当!坂田くんは?』
『……僕も………僕もAちゃんのこと、大人になってもずっと好きでおる!だから、だから………』
「………大人になったら、結婚してね!………か」
我ながら子供らしい約束だったと思う
年相応の言葉遣いで交わされた、指切りでの約束
この約束をした数ヵ月後に彼女は遠くに引っ越してしまったけど……俺は忘れられなかった
片時も彼女のことを忘れることなんてなかった
大人になって、東京に来て、たまたま入った美容室でAと再会した時は驚いた
驚いたと同時に嬉しさもこみ上げて、周りに人が居るにも関わらずに俺は大声で言ってしまったんだ
『俺と、結婚を前提に付き合ってください!』
彼女は目を見開いた後に、子供の時と変わらない満面の笑みで“喜んで!”って言ってくれた
その日の夕方、俺と彼女は出会った場所で夕焼けを並んで見た
“私、ずーっと坂田くんのこと忘れなかったし、ずーっと好きだったよ”と夕焼けを見ながらそう言った彼女に、“俺も忘れたことなんてないし、ずっと好きやった”なんてかっこつけて言ったっけ
ふふ、と微笑んだ彼女に、俺は“それに、これからも!”と声を張り上げて続けた
『俺はAにどんな事があっても、ずっと好きでいるよ』
“今度は指切りだけじゃなくて、ちゃんとした約束”と優しく口付けると、少し頬を赤らめた彼女はまた微笑んだ
『──────私も、約束!』
“ずっと隣に居てね”と手を握られて
もちろん、そう言って俺ははにかんだ
─────順調だったんだ、本当に
まるで台本があったかのように、俺とAは付き合って、幸せいっぱいで
嗚呼、駄目だ
(………………この気持ちを無かったことになんて出来ないくらいに、惚れてる)
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ゆあ 。(プロフ) - はじめまして!今更ながら『忘 却』のお話全て読まさせて頂きました。最初から涙が出そうになるくらいしんどくて、途中からはずっと泣きっぱなしで読んでいました(笑)とても素敵な作品でした! (2019年9月18日 12時) (レス) id: 3af7c8b63d (このIDを非表示/違反報告)
はる@坂田家 - はじめまして!今更ながら一気に読ませていただきました!さかたんがかっこよくて、かわいくて…涙が止まりませんでした。現在、きゃろっと。さんの作品を巡回中…どの作品もすてきなので次の作品に期待しますw (2019年8月16日 22時) (レス) id: ca03128f9d (このIDを非表示/違反報告)
みはる - 私事ですがこれを見て懐かしい先生を思い出しました。先生はガンで亡くなってしまいました。あの時1人でも不調に気が付き休ませていたら…。先生は生きていたのではないかと。私達の卒業式にも参加出来ていたのではないかと。思いました。私事ですが、この作品を読んで (2019年3月31日 0時) (レス) id: edefb05f29 (このIDを非表示/違反報告)
そら - 本当に面白かったです!素晴らしい作品をありがとうございました! (2018年3月31日 21時) (レス) id: 8291706c49 (このIDを非表示/違反報告)
るや@坂田家 - めっちゃ号泣しました(;~;) 記憶戻ってよかったぁってなりましたww (2018年2月21日 23時) (レス) id: c71806e144 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きゃろっと。 | 作者ホームページ:
作成日時:2017年8月26日 15時