【文スト】気儘に【短編集】

【坂口安吾・雪の日の仕事】 ページ25

※雪降ったから書く


一月某日……


テレビからは、大雪を伝える速報がずっと流れている。昼のニュースからこれだ。

(大して変わらないことしか言ってないな……)

たとえば、ノーマルタイヤの車がスリップしたとか。

たとえば、電車が動かない、或いは遅れていて帰れない帰宅困難者だとか。

たとえば、雪が降ってから慌ててチェーンをつけるドライバーとか。

「坂口先輩は帰らないんですか？」

戯れに、ふと先輩に聞いてみた。返ってくる答えなど分かりきっているけれど。

「この仕事が終わるまで帰れるわけないでしょう」

想像したとおりの台詞だった。

「社畜乙です」

「貴女は？」

「ご覧の通り、電車がストップしてるので地元に帰れません」

「なるほど」

家のある地元に帰るには、何本か電車を乗り継がねばならない。し、終電も早いので帰れるかはギリギリだ。

「終電無くなりそうなんで泊まろっかなーって、です」

「そうですか」

帰りたいのは山々だし、帰っていいと言われても交通機関がマヒしてたら帰れない。

「あーあ、雪モフモフ降ってますよ。何センチかな」

チラチラと白い花が舞って、地面に溶ける。

正直、そんなには積もってないように見えるけど、雪に慣れてない人にとっては、これが大雪なんだろう。

「予報では10センチ程度とのことですがね」

「先輩も早く切り上げて帰った方がいいんじゃないですか？」

「交通機関がマヒしているので帰れないですよ、どうせ。」

「じゃあ、二人で雪見と」

「行きません」

すっぱり断られてしまった。

先輩は相変わらず冷たい。

「雪見はしませんが、シェアしたいものはあります」

「なんですか？」

ちょっと、ワクワクしながら先輩の続きの言葉を待った。

おもむろに、書類の山を3分の1ほど持ち上げたかと思えば、こちらに差し出して来て、

「貴女も帰らないのであれば好都合です。これ、手伝ってください」

見たこともない、レアめな微笑をちょっぴりだけたたえて、恐ろしいことを言った。

…………社畜こわぁい……。


ま、どうせ帰れませんし。

「手伝ってあげます」

「それはどうも。あとでお礼はします」

手伝ってあげるのも吝かじゃないし、残業代後で請求しよ。

決して、先輩からもらうお礼目当てとかじゃない。断じて。

雪の日の仕事も、案外捨てたもんじゃないかも。


【はい、雪が降ったので書きました。安吾さんとふたりきりになって、缶ココア奢ってほしい】

【織田作之助・リンゴ】※ややネタバレあり→←【国木田独歩・告白と嫉妬？】

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