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小噺ーサーカスのブランコー ページ36

『お昼からあんまり飲みすぎないでくださいね』




優しい声が頭上から降ってくる。
酒で溶けかけた頭の中でその声は逆に毒で、さらに酒を煽ってしまう。この声の主であるオーナーの女性は俺に酒を沢山提供してくれる。それに加えて飯をうまい。俺は、此奴を少しだけ狙ってる。
仕事優先ではあるが、こういう休みの日くらいは女に目移りしてもいいだろう。




「いーだろー?今日はひさしぶりに、休みがはいったんだからよー」



『全く。仕事が休みになったら酒を浴びて、病気なっても知りませんよ?』



「嫁みてェなこと言うなよ!」




そうノリで言ったら、オーナーが黙った。
そろりと顔を覗くと、顔を赤くしてうつむいていた。その時俺は思った。なんだこの可愛い生き物は、と。
嫁みてェなんてその場のノリでしか言わねェだろうなんて軽く言ったらこんな感じだ。
純粋で綺麗、それに家庭的ときた。
なぜ誰も狙わねェのか。





『ほ、ほら、ごはんできましたよ!
これ食べたら帰ってくださいね!!』




酒のつまみとして沢山頼んだがそれが一気に運ばれてくる。これを食べきるには1時間くらい必要だろう。まぁちまちま食べてオーナーと話をするのも楽しくて好きなんだが、それだとオーナーが困るか。





「…………」




『…………』





話がない。
気まずさがあって飯も美味さ半減だ。それでも十分美味しいんだが、なんだか足りない感じがする。




『ちょっと、備品整理して来ても良いですか?』




「お、おぅ、いいぜ」





そういって奥へと消えてしまう姿を追いながら少しだけ感傷に浸る。
こうして離れていったやつのことを知っているから、今でもこうして離れて行く光景はあまり見ないようにしている。



「いなくなるなよ」




本人がいない中で言う囁き。
どうか奥に行ってしまったあの人に聞こえませんように。






『中也さん』




オーナーが奥からそろりと顔を出した。
そしてエプロンを外してたたみ、机に置くと少しだけ微笑んで店の後ろの方にある古いピアノに触れた。キーを押す指先は白い。鳴る音はまだ綺麗に溢れ聞こえ、オーナーは嬉しそうに笑った。





『いなくならないですよ。もう、誰も』




小悪魔的に微笑んだりオーナーがピアノを鳴らし始める。弾いている曲は、どこかで聞いた汚れた飴玉の曲。俺も合わせて歌う。






今この瞬間、俺たちがいることに幸福を感じながら。









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四月一日(プロフ) - NamE.薆さん» ありがとうございます! (2017年12月31日 7時) (レス) id: ecd8b49d96 (このIDを非表示/違反報告)
NamE.薆(プロフ) - 四月一日さん» かしこまりました!この小説の続編の方に書かせていただきますのでご覧ください。 (2017年12月30日 23時) (レス) id: 71af860354 (このIDを非表示/違反報告)
四月一日(プロフ) - NamE.薆さん» あ、そうでしたか。では、似たような異能をお願いします! (2017年12月30日 12時) (レス) id: ecd8b49d96 (このIDを非表示/違反報告)
NamE.薆(プロフ) - 薬研清香さん» 申し訳ありません。他の方からのリクエストなので、使用を許可できません。似たような異能をご希望ならお作りしますが、どうでしょうか (2017年12月30日 12時) (レス) id: 71af860354 (このIDを非表示/違反報告)
薬研清香(プロフ) - 37頁のクレヨンを使わせて頂いてもよろしいでしょうか? (2017年12月30日 9時) (レス) id: ecd8b49d96 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:NamE.薆 | 作成日時:2017年10月1日 21時

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