小噺ー探偵の様子見ー ページ23
「最近、どう?」
僕はオーナーに聞いた。
目の前で白銀の髪を揺らしながら甘いカフェオレを淹れている夜霜とは、もうかれこれ三年くらいの付き合いになる。
出会いは探偵業の傍らに寄ってみた本屋。
興味本位で入って見たら、白銀の女性と黒髪の少女がいた。
そこは、異能力を売ってるお店だったようで、僕も選んでもらおうと思ったけど、断られたんだっけ。
『店の方は問題ありませんよ。バイトの方でお金はどうにかなってます』
分かっているのに本質から目をそらすのがこの人の悪い癖だ。否、本気で向き合おうとしている姿があるのは知っているがどうも後ろ向きなところがあった。
僕はそう言うところだけはうまくないと思っていた。珈琲も対応もうまいのに。
「夕凪さんの方」
本質に触れてみればしんみりした空気が体に触れてくる。それはきっと前にいるオーナーさんも同じ。どんな事件であっても、こんな空気になるが、僕までしんみりするのは多分この時だけだと思う。
夕凪さん。
その人は今、店の奥で眠っている。目覚めないまま鼓動を続け、脳を微かに働かせている。
つまりは、植物状態というわけだった。
オーナーは夕凪さんの実の姉。
そして、眠ってる原因を頑なに語ってはくれない。
でも分かってしまう。
きっと、彼女が何かをしてしまったのだ、と。
嗚呼。わかりたくなくても分かってしまう。
この才が怖い。
『…………まだ、目を覚ましません』
そう言って、辛そうな顔をして下を向いた。
何も音が鳴らなくなってしんとした静けさが心の溝を少しずつ広げていくようだった。
「………大丈夫だ」
やっと出せた音は、ちゃちな励ましだった。
マシな言葉を出せない僕でもこの空気で、溝をさらに深めるようなことはしたくない。
『………そう、ですよね』
少しだけ微笑んで、何やら店の奥に入ってから何かを持って来た。
それはバター生地のクッキー。僕が初めて貰ったお菓子。
『いつも、相談に乗って貰ってすみません』
「いいんだ。僕が来たくて来てるんだから」
名探偵で、みんなから慕われる僕でも、たまにはこんな風に普通に話をして、相談に乗ってやりたかった。三年と言う付き合いをして、これからもきっとやっていくのだから。
『ありがとうございます』
その人が辛さを隠すように無理やり笑っているのは、名探偵の僕でもどうにもできなかった。
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四月一日(プロフ) - NamE.薆さん» ありがとうございます! (2017年12月31日 7時) (レス) id: ecd8b49d96 (このIDを非表示/違反報告)
NamE.薆(プロフ) - 四月一日さん» かしこまりました!この小説の続編の方に書かせていただきますのでご覧ください。 (2017年12月30日 23時) (レス) id: 71af860354 (このIDを非表示/違反報告)
四月一日(プロフ) - NamE.薆さん» あ、そうでしたか。では、似たような異能をお願いします! (2017年12月30日 12時) (レス) id: ecd8b49d96 (このIDを非表示/違反報告)
NamE.薆(プロフ) - 薬研清香さん» 申し訳ありません。他の方からのリクエストなので、使用を許可できません。似たような異能をご希望ならお作りしますが、どうでしょうか (2017年12月30日 12時) (レス) id: 71af860354 (このIDを非表示/違反報告)
薬研清香(プロフ) - 37頁のクレヨンを使わせて頂いてもよろしいでしょうか? (2017年12月30日 9時) (レス) id: ecd8b49d96 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:NamE.薆 | 作成日時:2017年10月1日 21時