ひと匙の幸せ【衣更真緒】

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「 い、意味わかんない！ 普通あの距離で見つける！？ 」





ブツブツと文句を言いながら階段を下り、特別に使用させてもらっている来客用の靴箱から使い古したスニーカーを投げ捨てた。

足を入れて外へ出ようとした時に聞こえた、「 月城！ 」と私を呼ぶ声は、恐らく、きっと。





「 衣更 」

「 お前こんな時間まで寝てたのか？ ったく、寝る子は育つって言うけど、授業には出ろよな？ 」

「 早々に説教？ もう聞き飽きたんだけど 」





ぷいっとそっぽを向いて歩き出す私の隣で、衣更はぺらぺらと次のライブのことやユニットのことを話し始めた。





「 それで今、スバルと北斗がさ… 」

「 衣更ってさ 」

「 ん？ どうした？ 」





話を遮ってやったっていうのに、衣更は気にする素振りを見せずに首を傾げる。

数本垂れ下がった前髪が汗で額に張り付いているのに、それすら魅せてしまうなんて、アイドルってすごいと思う。





「 私と話してて楽しい？ 理解 出来ないんだけど 」

「 は…？ 」

「 何その反応。図星です〜みたいな？ 」





ははっ、と自傷気味に笑って誤魔化したけど、肯定されるのが怖くて先に自らに銃口を向けただけにすぎない。

もう振り回されるのはごめんだし、やるならひと思いにやってほしい。





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