ひと匙の幸せ【衣更真緒】

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「 …悪い、平気か？ 」




屋上へ続く階段の手前で立ち止まった衣更は、こちらを振り向いて私の顔色を伺う。

繋がれたままの手に目をやってから、ジトリとその目を見つめ返せば、慌てて熱が離れていった。





「 お前の話をたまにしてたら、会長がやけに興味 持っちまってよ。捕まったら絶対 面倒だから気をつけろよ 」

「 天祥院先輩だっけ。顔は…ぼんやりと 」

「 仮にも俺らに曲を提供する作曲家だろ？ うちの会長くらい覚えとけって 」





階段を上って屋上へ向かう衣更の後を追って、太陽の下に出た。

相変わらずいい天気で、今すぐ昼寝をしたい気分だ。





「 そういや、何か用だったか？ お前から来るなんて珍しくてビビったよ 」

「 あー…それなんだけど… 」





本人を前にしていざ言うとなるとなかなか言葉は出てこなくて、口からは「 あー 」やら「 んー 」やらばかりで、肝心なところが言えずじまい。





「 ん？ どうした？ 」





なのに衣更は急かすわけでもなく、優しくこちらを見つめて、続きを促した。





「 昨日、は…ごめん。ちょっと言いすぎた、かも、しれない。ちょっと…。ちょっとだけ 」





一言も二言も余計な言葉を付け加えてしまったが、自分なりに精一杯 伝えたつもりだ。

衣更の顔を見るのも気恥ずかしくて、ただただ俯く。





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