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第漆拾玖戦 悪夢 ページ32

自分が未来に呼ばれた意味を知る為に、暫くは此処に居ようと考え直し、布団に潜り込むと、睡魔の影響もあり、泥の様に眠っていた。

◆◇◆

────その夜見たのは、奇妙な夢だった。

本丸の庭一面に咲き乱れた梅や桃、桜の花吹雪が水の張られた池を埋め尽くす。
心の底から笑顔を浮かべ、はしゃぎ回る短刀たちと共に桜の下に佇む老人の傍らには、三日月や見たことの無い刀剣男士も居る。

次郎太刀や日本号は酒盛りをしており、鶴丸や陸奥守も加わり、光忠や長谷部が重箱に飾り付けた料理を持ってくる。老人を中心に、幸せそうな刀剣男士たちの笑顔が生まれていた。

「(あぁ……きっと……)」

きっと刀剣男士の輪の中いるのが、三日月や長谷部の慕う、彼らを顕現した主だろう。この本丸の本当の審神者だろう。
ただ見ているだけで微笑ましい、幸せな時間。軍人の自分には二度と手にする事の出来ない安息だった。手を伸ばせば届くのに、伸ばそうとは思えない。

背後を振り返れば、一面血と死体に埋め尽くされている。瞳の無い死体が、無言で長門に訴えていた。
もしあの場所に立つのが自分で、刀剣男士たちが教え子だったら。もし上層部の無謀な突撃命令と特攻が無かったら……。一体どれだけの人数が救われただろう。

否、寧ろ特攻があったからこそ、日本は戦い続けた。満身創痍になっても家族の為、仲間の為、君主の為に。それでも彼らが飛び立つ直前に見せた最期の笑顔は、きっと嘘偽りなどではない。
大海に沈んだ墓標と共に眠る彼らの遺志を、この世界で知っている者は一体どれだけいるのだろうか。

寧ろ知らない方が幸せなのかもしれない。きっと彼らの望んだ平和はやってきた。しかしそれは彼らの犠牲の上に成り立った平和を謳歌する彼らの日常が、知らず知らずして侵されようとしている。
歴史を尊守する審神者と、己の正義で戦い続ける時間遡行軍との正義と正義がぶつかり、泥沼化している。

きっと歴史は黒白で片付けられない、複雑に絡み合い、見方によっては悪にも善にも成り得る。

「(私は……)」

だからこそ、一体どう報いれば良い────。

◆◇◆

翌朝、目が覚めると弾かれたように飛び起きた。動悸が激しく、背中は冷や汗で濡れている。長門は一度大きく深呼吸すると、額に浮かぶ汗を拭う。
未だ動悸は収まらないが、次第に発汗は収まり、真面に呼吸が出来るようになった。
終戦から三週間ほど経っていたが、碌に眠れない日が続いていたのは悪夢の所為でもあった。

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大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» ハワイの資料館ですか!私も1度は訪ねてみたいです。私の両祖父が軍人だったのと、生まれが広島なものでよく話を聞かされていました。死が正義という時代から、死を望む時代に変わった事については、皮肉なことに国の根幹は変わってないのです…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 大日戦さん» あの特攻した人の命を表す『ピイー』の音が、米軍の戦艦に突っ込んだ瞬間に『プツリ』と音が途絶える。その儚さにもう発狂しかけました。国のために命、家族すべて失うことが幸せな訳がないですよね?現代に生を得たから言えることですけど。また長文失礼しました。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 分かりやすい解説をわざわざありがとうございます!(敬礼)私もハワイの博物館とかにあった特攻の資料?とか、遺書のようなものを幼い頃見ていました。今でもその時感じた憂いのようなものが晴れません。国のために命を散らすことが正義なんて・・・ (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» “のたまう”は、大体『言う』のニュアンスで書いております。目線は第三者のつもりですが、時々刀剣男士になったり、こんのすけになったり、審神者になったりと突然切り替わることも多々あります…。ややこしくてすみません;; (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» あ、ありがとうございますぅぅ!退役軍人の手記や特攻隊員の遺書を拝見したことがあるんですが、やはり死への概念が今の人と全然違うのに驚かされましたね…。長門ニキは元大佐でも思考は現場寄りなので、デリケートな部分を書いていけたらと思っております…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:大日戦 | 作者ホームページ:https://www.pixiv.net/member.php?id=16263880  
作成日時:2016年12月18日 22時

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