第漆拾捌戦 拒絶 ページ31
「なぁ、長門、きみは俺たちに何を求めているんだ？」
「私が求めている物は、この世界では手に入りませんよ」
“絶対に手に入らない届かない物”を求めている。婉曲的だが、ハッキリと答えた長門に、鶴丸は何となくフィーリングで感じ取った。
きっと長門は、答えを既に出している。だから鶴丸や三日月の質問にも応え、折れる事を望んだ自分たちを叱咤激励したのだろう。しかしその答えは、自分たちの理想とは正反対なのだろう。
だから婉曲表現を使ってはぐらかそうとし、質問の趣旨を別の問題に逸らそうとしていたのではないか。
「きみが何を抱えてるのかは知らんが……少しくらいは話してくれても良いだろ、少しは悩みも軽くなるってもんだ」
「……私が何故、貴方の心に踏み込まないか分かりますか？」
今は放って置いてくれ。私の心に土足で入り込むな。長門は口には出さないながらも、彼の目はそう語っていた。言葉は柔らかいが、絶対的な拒否を孕んでいる口調に、鶴丸はやれやれと溜め息を溢す。
「私にも話したくない事があります。貴方たちも私に話したくない事がある。ならば……お互い話せるという時まで待つのが筋ではないでしょうかね」
「……そうだな、分かった」
是が非でも口を割りそうにない主に、鶴丸は肩を窄めて見せる。当分は主の地雷を踏まないよう、心に刻んでおく事にした。
本丸の屋根から二階の渡り廊下へ降り立った直後、唐突に眠気が襲ってきた。ここ数日、碌に眠れていなかったのもある。
思えば朝から夕食まで全く何も食べず、水も採っていなかった。欠伸と眠気を噛み殺し、鶴丸と共に１階へ向う。途中、粟田口の短刀や小夜の様子を見て自室へと戻った。
「じゃあまた明日な、おやすみ、長門」
「はい、おやすみなさい。今後ともよろしくお願いします」
鶴丸とは審神者用の部屋の前で別れ、長門の長い一日が終わる。初期刀の山姥切は、こんのすけと共に長門の布団の隣で眠っている。
軍服を脱いで、寝巻の着物に着替えていると、何故か肩に圧し掛かっていた重圧から解放された様に思えた。本当にこれで良いのだろうかという脳裏を過ぎる一抹の不安と、教え子への未練が長門を無意識に駆り立てている。
軍服を脱いでしまえば、もう軍人としての責務から解放される。だが教え子たちへ何と報いてやれば良いのか。
最後まで戦い続けた彼らを見送った後、自分は逃げたも同然に思えて仕方ない。
「これも何かの縁……。逃げるのは、日本男児失格ですね」
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大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» ハワイの資料館ですか！私も1度は訪ねてみたいです。私の両祖父が軍人だったのと、生まれが広島なものでよく話を聞かされていました。死が正義という時代から、死を望む時代に変わった事については、皮肉なことに国の根幹は変わってないのです…。 (2018年2月11日 14時) (
レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 大日戦さん» あの特攻した人の命を表す『ピイー』の音が、米軍の戦艦に突っ込んだ瞬間に『プツリ』と音が途絶える。その儚さにもう発狂しかけました。国のために命、家族すべて失うことが幸せな訳がないですよね？現代に生を得たから言えることですけど。また長文失礼しました。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 分かりやすい解説をわざわざありがとうございます！(敬礼)私もハワイの博物館とかにあった特攻の資料？とか、遺書のようなものを幼い頃見ていました。今でもその時感じた憂いのようなものが晴れません。国のために命を散らすことが正義なんて･･･ (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» “のたまう”は、大体『言う』のニュアンスで書いております。目線は第三者のつもりですが、時々刀剣男士になったり、こんのすけになったり、審神者になったりと突然切り替わることも多々あります…。ややこしくてすみません；； (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» あ、ありがとうございますぅぅ！退役軍人の手記や特攻隊員の遺書を拝見したことがあるんですが、やはり死への概念が今の人と全然違うのに驚かされましたね…。長門ニキは元大佐でも思考は現場寄りなので、デリケートな部分を書いていけたらと思っております…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：大日戦 | 作者ホームページ：https://www.pixiv.net/member.php?id=16263880
作成日時：2016年12月18日 22時
