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第玖拾参戦 加羅坊 ページ46

金色の瞳を伏せた鶴丸の顔は、普段の驚きを求める悪戯小僧のような若々しさはなく、何処か哀愁を帯びていた。

「加羅坊……とは?」

「あぁ、すまん、大倶利伽羅の事だ。光坊や俺と共に、伊達家に伝わった宝剣さ。あの前任が来た後、いつの間にか居なくなっちまってな……」

大倶利伽羅。伊達家に伝わる相州伝を作風とした打刀である。この本丸の最初の審神者によって喚ばれた刀剣男士で、鶴丸が幽閉された後、行方不明になったという。
しかし光忠は、大倶利伽羅の事には何も触れなかった。長門に遠慮していたのか、または……。

「……まだこの本丸全てを調べられている訳ではありません。大倶利伽羅さんが生きている可能性は完全に無いとも限らない」

「そうかもな……。そうだと良いな。加羅坊は図太い。大丈夫だと思うが」

再び琴線を弾きながら、鶴丸は虚ろな目を閉ざした。鈍い音響が、薄暗い離れに木霊する。長門には、低く力ない音が鶴丸の心情を表しているかのように思えた。

「加羅坊はな、光坊や貞……太鼓鐘貞宗より後から伊達家に来た。二人が伊達家から移った後も、一度も伊達家を出る事は無かった」

鶴丸は、鈍い音響を出す琴線を弾きながら淡々と語る。然る道であれば、鶴丸や光忠は…否、この本丸の刀剣男士たちは、親しい間柄の仲間や兄弟を失わずに済んだのだろう。
然る道であれば、自分は教え子を失わずに済んだのかもしれない。しかしそれは、ある意味 残酷なことなのかもしれない。

「……ある訳ないか」

「ん…?」

「……いえ。然る道であれば貴方は前の主を失わずに済んだ……と考えるなら、私も教え子を失わずに済んだのではと……」

無きにしも非ずという僅かな可能性を考えた者はいるだろう。だがその可能性自体、後から幾らでも言える。逆に言えば、その道になるように後から変えることも出来る。歴史修正主義者となって。
目を逸らしながらぽつぽつと呟いた主の童顔を眺めながら、鶴丸はさもありなん、と内心ひとりごちる。

「審神者のきみがそれを言うのかい?」

「……そうですね。私一人の未練で、本来の目的を忘れる訳にはいきません」

先程の戯言を忘れてくれと言うと、長門は俯いた。刀剣男士を率いる審神者が歴史修正を教唆するなどあってはならない。それでは闇堕ちを教唆していた前任と同じではないかと。
まして歴史修正を肯定するという事は、自身の君主や仲間、日本軍が護ってきたものを否定するのと同じ。

「正直、気が滅入りますね」

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大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» ハワイの資料館ですか!私も1度は訪ねてみたいです。私の両祖父が軍人だったのと、生まれが広島なものでよく話を聞かされていました。死が正義という時代から、死を望む時代に変わった事については、皮肉なことに国の根幹は変わってないのです…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 大日戦さん» あの特攻した人の命を表す『ピイー』の音が、米軍の戦艦に突っ込んだ瞬間に『プツリ』と音が途絶える。その儚さにもう発狂しかけました。国のために命、家族すべて失うことが幸せな訳がないですよね?現代に生を得たから言えることですけど。また長文失礼しました。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 分かりやすい解説をわざわざありがとうございます!(敬礼)私もハワイの博物館とかにあった特攻の資料?とか、遺書のようなものを幼い頃見ていました。今でもその時感じた憂いのようなものが晴れません。国のために命を散らすことが正義なんて・・・ (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» “のたまう”は、大体『言う』のニュアンスで書いております。目線は第三者のつもりですが、時々刀剣男士になったり、こんのすけになったり、審神者になったりと突然切り替わることも多々あります…。ややこしくてすみません;; (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» あ、ありがとうございますぅぅ!退役軍人の手記や特攻隊員の遺書を拝見したことがあるんですが、やはり死への概念が今の人と全然違うのに驚かされましたね…。長門ニキは元大佐でも思考は現場寄りなので、デリケートな部分を書いていけたらと思っております…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:大日戦 | 作者ホームページ:https://www.pixiv.net/member.php?id=16263880  
作成日時:2016年12月18日 22時

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