第漆拾壱戦 無礼講 ページ25
長門を挟んだ向かい側に座る光忠は、回っていた酔いが一気に冷めた。無礼講を許しているとはいえ、あまりしつこく絡み過ぎると流石の長門も黙っていないだろうと肝を冷やしたのである。
「貴方、敢えて私の地雷を踏み抜いているんでしょう。嫌です」
「またまた〜。我慢比べか?」
「ちょっ……!鶴丸さんっ!」
「鶴さん!」
にやり、と笑うと、鶴丸は長門にもたれ掛かった。厳密には、体重を掛けて押し倒した。隣で青ざめる光忠と、周りに居た刀剣男士は唖然としている。
三日月や陸奥守と酒を飲んでいた山姥切は片膝を立てていたが、三日月に制されている。
「長門!」
「はっはっはっ、相変わらず大胆な鶴よのう」
「三日月さん!笑ってないで鶴さんに何とか言ってよ!すぐ酔って絡むの知ってるでしょ!?」
暢気に笑っている場合ではない。鶴丸は酔った勢いとはいえ、長門が必死に隠し通している経歴や本名を聞き出そうとしている。しかし長門も全てを分かった上で対応している。
「諜報には向いてませんね。魂胆がバレバレです。あと重い、しつこい」
口ではどうこう言うが、長門は専ら忍耐力だけはある。我慢比べなら負けない自信もある。無論、分霊の個体差はあるだろうが、酒に強そうな三日月と張り合える蟒蛇でもある。
天晴れと暢気に笑っている三日月の隣で、鶴丸が下戸だと分かっていても肝を冷やした燭台切と、長門に身の危険が迫るのではと焦った山姥切は苦々しい表情で顔を見合わせている。
「きみは冗談が……通じん……な……」
「私の身体を枕にしないでください、寝るなら夜具は整えるので自分の部屋で寝てください。……やれやれ、光忠さん、手伝って下さい」
酔いも回り、完全に寝落ちした鶴丸に呆れているのは陸奥守である。長門は光忠と山姥切に助け起こされ、酒臭くなった軍衣を脱いだ。
気持ちよさそうに寝ている秀麗な鶴丸の穏かな顔を見ていると、先程まで肝を冷やしていた燭台切も枕にされた長門もすっかり毒気を抜かれる。
「大丈夫?」
「酔っぱらいの相手は慣れてます。昔、上司に振り回されたので。羽目を外しまくった教え子は酔い醒ましに投げ飛ばしてましたが」
「僕たちのSAN値が大丈夫じゃなかった」
情け容赦ない主に、光忠や山姥切の酔いは既に醒めている。鶴丸も泥酔するほど飲んでいるはずだが、それでもピンピンしている長門、恐るべし。
座布団を枕に爆睡する鶴丸に、長門は脱いだ軍服を掛けてやる。
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大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» ハワイの資料館ですか!私も1度は訪ねてみたいです。私の両祖父が軍人だったのと、生まれが広島なものでよく話を聞かされていました。死が正義という時代から、死を望む時代に変わった事については、皮肉なことに国の根幹は変わってないのです…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 大日戦さん» あの特攻した人の命を表す『ピイー』の音が、米軍の戦艦に突っ込んだ瞬間に『プツリ』と音が途絶える。その儚さにもう発狂しかけました。国のために命、家族すべて失うことが幸せな訳がないですよね?現代に生を得たから言えることですけど。また長文失礼しました。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
ふてんにぶおんぷ(プロフ) - 分かりやすい解説をわざわざありがとうございます!(敬礼)私もハワイの博物館とかにあった特攻の資料?とか、遺書のようなものを幼い頃見ていました。今でもその時感じた憂いのようなものが晴れません。国のために命を散らすことが正義なんて・・・ (2018年2月11日 14時) (レス) id: 7ca422baae (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» “のたまう”は、大体『言う』のニュアンスで書いております。目線は第三者のつもりですが、時々刀剣男士になったり、こんのすけになったり、審神者になったりと突然切り替わることも多々あります…。ややこしくてすみません;; (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
大日戦(プロフ) - ふてんにぶおんぷさん» あ、ありがとうございますぅぅ!退役軍人の手記や特攻隊員の遺書を拝見したことがあるんですが、やはり死への概念が今の人と全然違うのに驚かされましたね…。長門ニキは元大佐でも思考は現場寄りなので、デリケートな部分を書いていけたらと思っております…。 (2018年2月11日 14時) (レス) id: e07552d661 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:大日戦 | 作者ホームページ:https://www.pixiv.net/member.php?id=16263880
作成日時:2016年12月18日 22時