役目が先か、名が先か ページ40
いつか述べたが、Aは星見に拾われる以前のことを全く覚えてない。だから、彼女を拾った時父が名付けたのだ。
“いつか星見のプロデューサーになる”という役目を背負った名前を。
名乗りなれないのはきっと自分が父のようになれていないからだ、とAは思う。
自分は一生Aを名乗るつもりでいるし、あんまりにも重い話なので誰にもしたことがなかった。
が、実は目の前にいるジュンも同じように命名されたということをAは知らない。
二人がお互いの名前の意味を知って「おそろいだ」と笑えるようになるのは、もう少し未来の話。
＊
『お疲れ様、ですっ！』
「Aどうしたの、汗びっしょりじゃん」
凛月の言う通り、学校から今戻ったらしきAは全身に玉のような汗をかいていた。髪も若干乱れている。どうやら走ってきたらしい。
「その手に持ってるの、ビアードパパ？寄ってきたの？」
『これはっ、今日……ゲホゲホッ』
「あーあー、無理して喋んないでよ。深呼吸深呼吸」
凛月に背中をさすられて、なんとか呼吸を整える。
暑そうだからカーディガンを脱げばいいのに、と言われるもAは頑なに拒否した。何か事情でもあるらしい。
興味ないなら聞かないけど。
『じ、実は今日電車で乗り過ごしちゃって、知らない駅で降りたんです。ビヤードパパはそこの駅の地下街にあったから今日のご飯用に買ってきたやつで』
「あー、栄えてる駅ってよく地下にビヤードパパあるよね。なんて駅？」
『確かきさらぎ駅って』
「きさらぎ駅？！」
ちょっと大きな声が出た凛月に対し、Aは『知ってるんですか？』と呑気な笑顔で宣った。
知ってるも何もきさらぎ駅は超有名な都市伝説である。足を踏み入れたら二度と出られない系の。
A曰く、駅の周りを歩いていたら祭囃子がどこからか聞こえてきたので、それに合わせて歌いながら歩いていたら戻って来れたらしい。
その会話を偶然聞いていた職員の一人は「歌が下手くそすぎて吐き出されたんだな……」と察した。
が、凛月はAが死ぬほど音痴なことを知らないので、「この子の歌に浄化作用とかあったのかな？」なんて思ったりした。
残念ながら目の前の女の歌声に備わっているのは浄化作用ではなく破壊作用のみである。
「そっか、きさらぎ駅って栄えてるんだ……ちなみに何線乗ったの？」
『哭倉線です！』
「フーン、哭倉線もう二度と乗らない」
哭倉線が惜しい乗客をなくした瞬間だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 248人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
紅鮭(プロフ) - 蘆花さん» 温かいお言葉ありがとうございます！！蘆花さんの琴線に触れたようで何よりです……！石が尽き次第戻ってくるので気長にお待ちください🫶🏻 (3月29日 9時) (
レス) id: cc18d6b067 (このIDを非表示/違反報告)
蘆花(プロフ) - うわぁぁぁぁ…レオくん…レオくんッッッッ！！！もー…レオくん…としか言えない…！素晴らしすぎです！更新、ほどほどに待ってます！ (3月28日 21時) (レス) @page35 id: bf60b993eb (このIDを非表示/違反報告)
紅鮭(プロフ) - らむさん» ありがとうございます！！そう言ってもらえて嬉しいです！頑張ります！ (3月8日 21時) (レス) id: cc18d6b067 (このIDを非表示/違反報告)
らむ(プロフ) - すっごい面白くて引き込まれました…！更新頑張ってください…！ (3月7日 18時) (レス) id: af9a9b1d28 (このIDを非表示/違反報告)
紅鮭(プロフ) - ペネロッペさん» わーっ！コメントありがとうございます！！ペネロッペさんの言葉を励みに頑張ります👊🏻❤️🔥 (1月3日 21時) (レス) id: cc18d6b067 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
