百十六話 ページ16
〜福沢〜
遅れて出社すれば案の定、馴染みの顔ぶれが揃っていた
チョコのお返しに似たような系統の菓子を贈る中、乱歩だけはぬいぐるみと変わり種ではあったが一番喜んでいる
「しゃちょも、触って」
小さいほうを何度か触れたことがあるため、恐らく手触りは同じだろうがAの心遣いを無下にもしたくない
前足に触れてそっと握った
予想通りだな
「これ、持って帰っていい?」
福沢「あぁ。当然だ。Aが貰った物だ。どこに連れて行くも、Aが決めればいい」
「ん……」
嬉しそうに、恥ずかしそうに、はにかむAを見て、ほとんどの者が左胸を抑えて苦しむ
「あ、あのね。しゃちょ。しゃちょにお返し、用意したの。貰って、くれる?」
そうやって聞きながらも、表情はどこか断られることを信じて疑わない
福沢「もちろんだ。そうだA。私もAにお返しを用意したのだが。貰ってはくれないか」
驚きの中に僅かな
私達にとっての当たり前は、Aにとっての特別
あぁ……自惚れてしまいたい
他の誰より、私がAの特別な存在なのだと
福沢「少し後ろを向いてくれるか」
クルリと反転したAの首に、髪留めと同じ店で購入したネックレスを付けた
今は隠されてしまったAの紅色
小さいが本物の宝石をあしらっている
ただのアクセサリーにすぎないが、髪留め同様にこれを付けていれば私が近くにいるのだと分かって欲しい
福沢「どうしたA?」
気に入らなかったのだろうか
黙り込んでしまった
「綺麗なの、くれた……けど、Aの、下手」
福沢「また作ってくれたのか?」
「美味しいお茶もあるよ」
私が和菓子には茶を合わせることを覚えてくれているからこそセットでくれるのだろう
福沢「私のために頑張って作ってくれたのか」
「紅葉と一緒、作った」
森「紅葉くん?」
紅葉「Aの純粋な想いに応えてあげたくてな。それに、嫌いじゃない、ボスへの報告義務はないはず」
誰と作ったではなく、私のため、というのが嬉しくてたまらない
和菓子はチョコと違い期限は今日中
夜にでも食べなくては
多くは望まない
Aの特別と思うことが、私達と同じように当たり前と感じてくれるのなら
溢れる愛しさを伝えたらAは、伝わってくれるだろうか
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作者名:まゆ | 作成日時:2024年2月9日 21時