百二話 ページ2
〜福沢〜
Aにとって身を守る術は新たな人格を生み出すことではなく、心を閉ざすことだったのだろう
それしか生きる方法がなかった
Aが心を閉ざして数日
雨が振る
あの日と同じように、止むことなく振り続ける
泣けないAの代わりに、泣いているかのように
今のAを人前に出すべきではないと判断し、家に残して出社する
定期的に様子を見に帰るが、「Aが治るまで休めば?」と乱歩に言われた
今日も一度、昼に家に帰るとAが庭に出ていた
雨に打たれることを気にしていないAは、ぬかるんだ地面に膝を付き、溜まった泥水をすすろうとする
福沢「やめろ!!」
傘を放り投げて駆け寄り、Aを抱き上げた
福沢「すまない。すまない……」
何に対しての謝罪か
壊れるぐらい、自然と抱きしめる力が強くなる
バカか私は
Aを一人にしたらこうなることを予想出来ただろうに
国木田に連絡を入れた
乱歩の言う通り、Aが治るまでは探偵社には行けないと
福沢「守ると約束したのに傷付けてしまい、すまない。これからは側にいる。Aがまた笑えるようになるまで、ずっと」
「しゃ、ちょ……」
雨音にかき消されてしまいそうなか細い声に、泣きたくなった
私を見上げる瞳は虚ろではあるが、微かに光りが宿っていた
「しゃちょ……?」
伸ばされた小さな手が私に触れると、静かに涙が流れた
「しゃちょ……っ、グス…ん〜……しゃちょーー!!うわーん!!痛かったぁぁーー!!」
ボロボロと涙を流すAは、何度も何度も何度も、悲痛な叫びを訴える
泣くことはおろか、痛みを口にすることさえ許されなかったAは、初めて誰かに「痛い」と言った
初めて泣いた
福沢「私のせいで怖い思いをさせてすまなかった。約束を破ってすまなかった」
守ると決めて、それでも守れないのなら、私は弱い
二人仲良く雨に濡れたせいで風呂場に直行した
目が赤い。あんな風に叫んだのは初めてで、Aは喉をやられていた
今も少し泣いているのだが
Aがいると体の力が抜け、湯船でリラックスしてしまう
こんなに気が抜けてしまうのは、Aが側にいてくれるから
福沢「A。今度からは知らぬ者について行ってはダメだ」
「だって、しゃちょ、いる言った」
福沢「そういうときは私に連絡をしてくれ。そのための携帯でもあるんだ」
「ん、分かった」
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作者名:まゆ | 作成日時:2024年2月9日 21時